TACTICAL FRONTIER
サッカー戦術の最前線は近年急激なスピードで進化している。インターネットの発達で国境を越えた情報にアクセスできるようになり、指導者のキャリア形成や目指すサッカースタイルに明らかな変化が生まれた。国籍・プロアマ問わず最先端の理論が共有されるボーダーレス化の先に待つのは、どんな未来なのか? すでに世界各国で起こり始めている“戦術革命”にフォーカスし、複雑化した現代サッカーの新しい楽しみ方を提案したい。
今は最先端のトレーニング理論であっても、8年後となる2030年には「常識」になっているかもしれない。そう考えれば、今から未来を見据えたトレーニングを考えていくことは重要だ。特に育成年代の選手たちを指導している人々にとって、8年後は遠い未来ではない。現在12歳の選手が2030年には20歳になっており、トップレベルのチームで活躍している可能性もある。だからこそ、今回は「2030年のサッカー選手」にどのようなフィジカル的な特性が求められるのかを考えていこう。
予想1:インテンシティの強度が40%増加する
スポーツ科学者ギャレス・サンフォードは、オリンピックで活躍するアスリートを数多くサポートしてきたフィジカルの専門家だ。彼はこれまでに400人のアスリートと働いており、オリンピックなどの国際大会で12個のメダル獲得に導いた実績がある。2021年の東京オリンピックではカナダ代表でマラソンや競歩の選手をスポーツ科学の観点からサポートするなど、活躍の場を広げている。彼によれば、2030年までにプロのサッカー選手に求められるインテンシティの強度は「12-13シーズンから40%増加する」と考えられている。予測のベースとなっているのがゲームスピードの急激な上昇であり、W杯決勝戦のパス本数は1966年から2010年で11本から15本(1分あたり)に増加し、ボールトラッキング技術によって測定されるゲームスピードは15%増加している(8.0m/秒→9.2m/秒)。このスピードが今後も変わらず上がっていくと仮定すれば、2010年から2030年の間では7%のスピードアップが予想される(9.8m/秒)。走行距離でもプレミアリーグでは毎年3%程度は増加しており、スプリントの回数も増えている。
高いインテンシティが求められているのは戦術面でも同様で、プレッシングの重要性は高まっていく一方だ。今シーズンはマンチェスター・シティが前線からの激しいプレッシングで相手の自由を奪っており、ベルギー代表MFケビン・デ・ブルイネも中盤で献身的にプレーしている。特にアタッカーに求められるプレー強度はトップレベルにおいて、欠かせないポイントになりつつある。圧倒的な攻撃のセンスを武器にしていても、今や守備で貢献できない選手の居場所はなくなりつつあるのだ。激しいプレッシングだけでなく、そのプレッシングに対抗するカウンタープレッシングやカウンターアタックの回数が増加していく傾向も続くだろう。
そのように考えると、選手に求められるフィジカル的な特性も変わってくる。女子のフットボールでも男子以上のスピードで「フィジカル能力の向上」が進んでいる。
2015年W杯と2019年W杯を比較すると、求められるフィジカル能力が向上するスピードは男子を超えている。なでしこジャパンが苦しむようになった理由も、そこに一因がある。急激な変化に適応するのは難しく、世界王者だった彼女たちも例外ではない。
予想2:加速と減速の回数が増える
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Profile
結城 康平
1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。