【いざクラシコ】シャビ・バルサは「スピーディーな強襲」「3人目の動き」「質的優位で殴るクロス攻撃」を携えて
日本時間3月21日(月)朝5時、サンティアゴ・ベルナベウでキックオフを迎えるリーガエスパニョーラ第29節のエル・クラシコ。メッシ後の世界に苦しんできたバルセロナにとっても、シャビ監督就任から約4カ月半、もう言い訳できない一戦だ。目下リーグ戦4連勝、公式戦11戦無敗(8勝3分)と上り調子のチームは、1月12日のスーペルコパ準決勝、2-3でレアル・マドリーが制した前回対決から、冬の積極補強も経て、どのような変化を遂げているのか。今季開幕からバルサの動向を伝え続けてくれている、ぶんた(@bunradio1)さんに分析してもらった。
暗くて寒い冬が過ぎ、季節とともにバルサにも春がやってきた。ラ・リーガでは破竹の4連勝で2位セビージャの背中も見えてきた。ELでもベスト8進出と、あるべき強さを取り戻している。その最大の要因になったのが的確な冬の補強であるが、補強前からシャビはアタッカーのタスクを明確にしていた。それがこれである。
■ドリブルで1対1に勝てるウインガー
■中盤中央で組み立てに参加し、誰が侵入してもいいスペースを意図的に空けることができる万能型9番
■動的配置の構造にスムーズに馴染み、前向きの状態でDFライン裏や味方が空けたスペースに侵入してフィニッシュに絡めるウイング兼ストライカー
この現場サイドの注文に応えたのが、アダマ・トラオレ(←ウォルバーハンプトン)、オーバメヤン(←アーセナル)、フェラン・トーレス(←マンチェスター・シティ)であった。しかもフェランとオーバメヤンはバルサの文脈に近いフットボールを前チームで体現し、アダマに関しては元バルサのカンテラーノ。なので3人のチームへの移植はとてもスムーズであった。
前政権では現場とフロントの意思が噛み合わず、売り手に足元を見られてコスパも悪く、移籍マーケットでの立ち居振る舞いが下手くそだったが、チーム再建へ辣腕を振るったフロント(特にフットボールディレクターのマテウ・アレマニー)の現場と一体感のある仕事は見事であった。
「スペースを利用する」崩しの新機軸
プレミア三銃士の加入で前線のクオリティ、モビリティ、インテンシティが増し、シームレスな4局面の循環はよりスムーズに。意図ある配置と再現性の高い仕組み化で、一つの循環の繋がりも濃くなり、試合の支配力が高まった。
そしてゴール前でシュートを打ち、ゴールを決める数が飛躍的にアップし、求められる結果を出すことで勝利に貢献する。3人の加入はチームの成長率をグンと伸ばす起爆剤となった。
やっと理想とするメンバーがそろったことで、シャビ・バルサの輪郭もつかめるようになった。シャビはバルサのフットボールで勝利を得るために、フィソロフィに沿った戦型に戻しつつも、現代フットボールで相手を負かすための進化もさせている。その一つが、“スピーディーな襲撃”である。
クローズドに陣形を整えつつ、ボールとスペースを支配する戦い方はバルサの基本である。しかし押し込んだ状態で位置的優位を得ても、それを次に繋げる前に相手はズレを修正し、守備組織が補正される。ポジショナルに紡ぐ優位性が優位にならない守備ブロックの緻密さという現実がある。なので、守備ブロックを構築される前に攻め切ろうというペップ進化論と同じ思想をシャビはチームに導入したのである。
このスピーディーな襲撃を仕掛ける時の原則はこんな感じである。
■ボール保持者がオープンであること
■スペースの状態が優位に使えること
■相手の背後を取れること
これがそろえば場所が自陣であろうが構わず、スピードを上げてゴールに襲いかかる。シャビの言葉を借りると「スペースを利用する」という、新たに持ち込んだ崩しの新機軸である。
2カ月前、僕はバルサが中盤でタメを入れてクローズドな展開にするべき時に、縦へ斜めへとパスを差し込みオープンな戦況になってしまう“なんか速い展開”を問題視し、選手の意思決定が曖昧で、原則行動が逆になっていると指摘した。実際そういうエラーも多々あったが、その当時からスペースを利用したスピーディーな襲撃を企んではいたのが今になってわかる。しかし若きカンテラーノのスピードとクオリティではフィニッシュまで至らず、ボヤけてしまっていたのだ。
しかしクローズドにスペースを管理、支配すると、オープンにスペースを利用するという絶妙に曖昧な境界線を見極め、正しく判断するのは、原則があったとしても複雑に移ろい行くピッチ内では難しいはずだが、それを完璧に判断できるのがペドリである。
ペドリ自身がオープンな状態でボール保持した時の判断で、「行けるかも」「行けそう」という状態ではまず仕掛けない。本人が「行ける」と判断した時だけスペースを利用するのだ。
元来ゆっくり攻め込むチームなので、原則を共有してもどうしてもブレる“スペースの解釈”をペドリは整え、チームに伝播させる。このさじ加減が絶妙である。
時にはパウサ(小休止)を入れながら配置を整える時間を作り、時には相手がボール狩りに来た勢いを利用してターンでかわし、運ぶドリブルで自らスペースを利用する。そのスイッチを入れる技術の使い方も間違いがない。
「監督は僕に自由を与えてくれている」と言っていたが、きっとこの判断の自由だろう。ペドリの理に適った判断は、マクロとして調和の取れたチームのダイナミクスを生み出している。その都度スペースを理解し、テンポとリズムをコントロールするメリハリのあるゲームメイクをシャビが絶賛するのもうなずける。
昨シーズンからメチャうまいど偉い新人ではあたったが、長期のケガを経てから一皮剥け、チームを背負う大黒柱へとさらに成長した。しかもそのレベルが、ペップ・バルサ黄金期を支えた偉大過ぎるクラック2人にかなり近づいているのが驚異的である。
そしてもう1人、この新機軸で水を得た魚のように大車輪の働きをしている男がいる。バルサのフットボールに馴染めず、大器が未完のまま時が過ぎていたフレンキー・デ・ヨンクだ。
これまで誰もが考えていた、フレンキーがバルサのフットボールに合わせるべきという考えをシャビは一変させた。フレンキーが合わせるのではなく、相互作用のリンクを調節することで味方がフレンキーに合わせる。フレンキーはフレンキーのままでといいとしたのだ。
それにより原則からはハミ出さない程度の自由を手にして、本人が好むたくさんボールに触れる状況化でプレーリズムを取り戻した。そしてプレミア三銃士と美しく溶け合うスピーディーな襲撃で、あのアナーキーな起動力がチームにやっと還元できるようになった。
フレンキー自身、オープンな状態でボール保持した時の状況判断はペドリと真逆となる。「行けるかも」「行けそう」という状態では自慢の運ぶドリブルを仕掛ける。「行ける」と判断した時は、さらにゴール前まで侵入してストライカーへと化ける。
状況と行動を感覚的に擦り合わせていくフレンキー。理論で調和させるペドリ。2人の司令塔は新機軸のタスクの中でキャラが過不足なく結び合う関係性として、とてもマッチしている状態にある。
これは余談だが、ガビやニコがインテリオール(インサイドMF)をしても良いプレーはする。というか、バルサのフットボールの正解を素早く出せる。それも大事なのだが、現代フットボールでゲームメイクする選手は戦術的余白のない中で正しい答えを出す問題解決力だけではなく、1人のチカラでチームの創発現象に導く、遊び感覚の構想力のようなものが必要なのではないかと、ふと思う(会社のリーダーでもそうだけど)。
現にアヤックスのモダンな教育を受けたフリーダムなオランダ人と、ラス・パルマスの島でイニエスタのビデオを見て完コピしていた青年が、エリート教育を受けた精鋭たちを押しのけてレギュラーを張っている事実に少し考えさせられるものがある。
3人目の動きによるボール循環
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Profile
ぶんた
戦後プリズン・ブレイクから、男たちの抗争に疲れ果て、トラック野郎に転身。デコトラ一番星で、日本を飛び出しバルセロナへ爆走。現地で出会ったフットボールクラブに一目惚れ。現在はフットボーラー・ヘアースタイル研究のマイスターの称号を得て、リキプッチに似合うリーゼントスタイルを思案中。座右の銘は「追うもんの方が、追われるもんより強いんじゃ!」