「Jクラブの課題は、認知度と好感度の認識にある。認知度は高いが、実は好感度は思っているより高くない」
Jクラブで働いていると、「自分たちを知っているけど、興味ない」層が見えにくくなるという。なぜ、そういう現状が起こるのか。そして、そこにどうアプローチしていくべきなのか。ゴールドマン・サックス出身でJリーグ史上最年少の31歳でFC琉球の社長に就任、現在はそこでの経験をもとにクラブ経営の外部コンサルを行っている三上昴氏と一緒に考えてみたい。
先日、このようなツイートをさせていただきました。基本的にJ1やJ2クラスになると、地域でJクラブの名前を知らない人はほとんどいません。例えば、営業する時でも、名刺交換を断られることはほとんどなく、どちらかというと興味を持ってもらえることの方がはるかに多くあります。
クラブ公式SNSでは、多くのファン・サポーターの方が日常的にポジティブな反応をしてくれますし、メディアに取り扱ってもらえる回数も非常に多くあるのが現実です。
僕はFC琉球にフロントスタッフとして関わるようになってからの2年間、すべての時間とエネルギーをクラブに注力してきました。開幕戦に向けて盛り上がっていくのは関係者にとっては必然です。ホーム開幕戦に向けた高揚感は今でも鮮明に覚えています。
でもクラブを離れて、感じたのは、その感覚が当たり前ではなかったということ。開幕戦があることを知らない。そもそもリーグが終わっていたことを知らない。対戦相手が強豪クラブであることを知らない。言い出せばきりがありません。クラブの名前は知られていたとしても、本当の意味でのクラブの活動はほとんど届いていません。
無意識のうちにJクラブにはびこっている「大企業病」
冷静に会社としての規模を考えると、Jクラブと同規模水準の中小企業の名前を思い浮かべることができる人がどれくらいいるでしょうか。売上高が100億円を初めて超えたということで話題になったヴィッセル神戸ですが、大半の方が売上高100億円を超えている企業一覧を目にしたとしても、しっくりこないのではないかと思います。
それくらい会社(クラブ)の規模と知名度の差にギャップがあるのがJクラブなのです。
もう一点気になることがありました。それは選手の認知度と好感度の関係です。僕はベンチマークにしている選手を何人か決めて、毎週フォロワー数を確認しています。選手がSNSを更新すると、多くのファン・サポーターからの反応があります。しかしフォロワー数は増えないのです。しかし選手のフォロワー数が増える瞬間があります。それは選手が移籍して、別のクラブの選手になった時です。
この時、選手個人に対しての好感度ではなく、クラブを認知している方がフォローしているだけなのではないか?と考えました。つまり、あくまでも1つの傾向としてですが、フォロワー数の多い選手は選手自身の魅力のある選手というよりは、フォロワー数の多いクラブに所属していたので、フォロワー数が多いということが言えるかもしれません。
先ほどは会社(クラブ)の規模と知名度の差について書きましたが、同時に選手の魅力と知名度に差があるという言い方もできるかもしれません。
知名度が高く、知ってもらえているということは一般的にはポジティブな材料ではありますが、残念ながらJクラブやJリーガーの場合、ネガティブな面もあるのではないかと感じています。
規模的にはベンチャー企業なのにもかかわらず、大企業のような空気感をまとってしまっているように見えるからです。ビジネスモデルがほとんど同じであること、毎年同じスケジュール間で日程をこなすという特徴も相まって、他クラブ追従や前年踏襲の文化が染みついてしまっています。認知度が高いあまり、本来ベンチャー企業の規模であること、スピード感をもっていろいろなものにチャレンジしていかなければいけない、という危機感を忘れてしまっていることに気づかなければいけません。
では、Jクラブがチャレンジをしていくためには具体的に何をすべきなのか。
その際にクラブ自身が向き合わなければいけない問いかけは、「クラブにとってのお客様は誰なのか?」「お客様を笑顔にできることは何か?」この2つです。
クラブにとってのお客様は誰なのか?
まず1つ目の「クラブにとってのお客様は誰なのか?」から考えていきましょう。……
Profile
三上 昴
筑波大学蹴球部、筑波大学院システム情報工学研究科にてMBAを取得後、ゴールドマンサックス証券株式会社債券営業部に入社。同社を退職後、2018年よりJ2初年度となったFC琉球に参画し、2019年4月にはJリーグ史上最年少(当時31歳)で代表取締役社長を務めた。2020年には同クラブを退社後、筑波大学蹴球部時代の仲間と共にHuman Development Academyを創業。