ドイツサッカー連盟(DFB)とケルン体育大学による共同プロジェクト「チーム・ケルン」では数々のアナリストを育て上げ、代表チームの各年代やブンデスリーガの各クラブをはじめとするドイツサッカー界のあらゆる現場に優秀な人材を輩出し続けている。現在そのドイツ最大のアナリスト養成講座で学び、ビクトリア・ケルンU-19でアナリストを務める吉田健太氏に、チーム・ケルンの存在意義とU-19ブンデスリーガの廃止論争について話を聞いた。
「アナリストは報われない仕事」…東京五輪で味わった苦悩
――まずは吉田さんが在籍されている「チーム・ケルン」について紹介していただけますか?
「チーム・ケルンは2年に一度、ドイツ代表が戦うEUROあるいはW杯に向けて立ち上げられるアナリスト養成プロジェクトです。主要国際大会での分析業務は本当に難しくて、例えば決勝トーナメントでは対戦相手が決まっていなかったりするわけですよね。連戦の過密日程の中で対峙する可能性のある選手やチームをすべて分析していくには、代表チームのスタッフだけではとても人手が足りないので、外部の力を借りるためにDFB(ドイツサッカー連盟)がチーム・ケルンを開催しています。そこでケルン体育大学でスポーツを学んでいる学生か、すでにアナリストとして働いている人材に募集がかけられていて、僕は前者として参加させていただいています。
僕たち参加者からしても、活動する中で大学の教授や協会のスタッフによる講義を受けながら、マッチレポートの書き方や分析ツールの使い方を教わって、プロのアナリストとして働くうえで必要になる個人分析からチーム分析までのノウハウを身につけられるので、お互いにメリットがあるWin-winな取り組みになっています。それが2006年のドイツW杯から続いていて、僕たちの代ではカタールW杯までの約2年間を通して勉強しつつ、本大会で実際にドイツ代表の分析をサポートする予定です。その一環として東京五輪でも、U-24ドイツ代表の分析業務を手伝っていました」
――東京五輪ではどのように分析をされていたのでしょうか?
「当時はまだ半年くらいしか活動していなかったので、まだチーム分析には入らずに個人分析を担当してやっていました。まず約60人いるメンバーがグループに分けられ、出場国が振り分けられます。その中でメンバー一人ひとりに選手が割り当てられて分析対象が決まる形です。僕たちはドイツサッカー連盟から各ポジションにおける分析のフレームワークを与えられているので、それを基にデータベースWyscoutを使ってその選手のプレーを分析しています。例えばDFの選手なら1対1のシーンを見て、左右どちらの足で奪いに来るのか、重心は高いのか低いのか。あとは背中を向けている時にもガッツリ来るのか、それともリトリートするのかを見ていきます。そうやって担当する選手の特徴が一目でわかるシーンを切って映像クリップを作り、提出していく流れですね」
――吉田さんのグループには、どの国が割り当てられていたんですか?
「僕のグループではコートジボワール、オーストラリア、メキシコが割り振られました。そこから4選手ずつ各メンバーで担当したので、僕自身は計12選手を分析しましたね。そのうちコートジボワールはグループステージ最終節の対戦相手で、大会前だけではなくグループステージの他2試合におけるプレーも過密日程の中で分析をしなければいけませんでした。さらに決勝トーナメントで当たる可能性があったオーストラリアとメキシコの選手も、グループステージから調べておく必要があったので、開催期間中はかなりしんどかったですね。
でも結局、ドイツはグループステージで敗退してしまって、コートジボワールとしか対戦しなかったんです。さらにコートジボワール戦でも僕の分析した選手は1人しか出てこなくて、それも終盤に途中出場しただけでした(苦笑)。だから今回に限った話ではありませんが、アナリストはせっかく手間や時間をかけても報われない仕事ではあります。
ただ、大会終了後にU-24代表のアシスタントコーチとアナリストがチーム・ケルンの講義に来てくださって、僕たちの活動がどのように現場で役立っているのかを教えてくれました。僕らが行った個人分析はプラットフォームに集約されて、手持ちの端末上で選手情報をタップしていくと、例えば1対1のプレー集やさらにその細かな分類まで映像で確認できる仕組みになっているんです。そうやって事前に選手やスタッフが確認する時に使われていたことを教えてくれたので、『少しは役に立てたのかな』という実感は得られましたね」
プロアナリストの登竜門としての「チーム・ケルン」
――吉田さんはドイツで留学生という立場ですが、代表チームの活動に外国人が受け入れられる土壌があるんですね。……
Profile
白戸 豪大
1994年沼津生まれ、浦和育ち。フランスのグランゼコールを卒業後、ドイツの博士課程でサッカーデータを対象にビジュアル分析の研究をしている。ポッドキャスト番組「フットボールしぶっ!」を運営中。