ヨーロッパリーグのプレーオフで実現した、FCバルセロナ対SSCナポリ。一方は世界に名だたるメガクラブ、もう一方は欧州での躍進を狙うイタリアのローカルクラブ。知名度、ファンの数、財政規模、似たところのないこの2クラブにはしかし、かつてディエゴ・マラドーナが在籍したという共通点がある。“マラドーナダービー”とも呼ばれたこの対戦の結末は、両クラブに何をもたらしたのか。
「順当な結果」という意外性
今季から導入されたEL決勝トーナメント・プレーオフは、ELのグループステージ2位チームと、CLのグループステージ3位チームを抽選で組み合わせて行われる。レスターを破り、スパルタク・モスクワに次ぐ2位でELグループCを通過したナポリは、CLグループEでバイエルンとベンフィカに次ぐ3位となったバルセロナを引き当てた。このドローをナポリのチームスタッフがどう捉えたかは知るよしもないが、少なくとも経営陣は喜んだに違いない。奇しくもマラドーナ没後1年が過ぎたこのタイミングで、彼に縁のある2クラブの対戦は注目を集め、ホーム戦のチケット売上増が期待できる。生々しい話だが、パンデミックによってチケット収入が落ち込んでいるクラブにとっては切実な問題だ。
現地時間2月17日、カンプノウで行われた第1レグは1-1のドロー。29分、ピオトル・ジエリンスキが左足で打ったシュートをテア・シュテーゲンが一度は弾いたが、ポーランド代表MFはこぼれ球をすかさず逆足で叩き込んだ。ボールポゼッションでもチャンスクリエイトでも上回るバルセロナの攻撃をナポリはなんとかしのいでいたものの、後半早々、前半からサイドで脅威となっていたアダマ・トラオレのクロスがファン・ジェズスのハンドを誘い、PKを獲得。フェラン・トーレスがアレックス・メレトの逆を突いてしっかり決め、59分にバルセロナが同点に追いつく。しかしそれ以外の決定的なチャンスをことごとく外してしまい、試合はそのまま終了。シュート数21本、枠内5本というスタッツから受ける印象の通り、バルセロナにとっては、チャンスを作りながらもゴールが遠い悔やまれる内容だった。アウェイのナポリにとっては、相手のチーム状況が万全ではなかったことを踏まえても、圧倒され続けた展開を考えれば、引き分けは妥当だったと言えるだろう。
そして1週間後の2月24日に迎えた第2レグ、スタディオ・ディエゴ・アルマンド・マラドーナには4万人を超えるナポリサポーターが集まった。ホームの熱狂を背に、マラドーナの名を冠したスタジアムでバルセロナを倒し、決勝ラウンドに進出する――。そんなサポーターの期待とは裏腹に、開始早々に試合の行方が決まってしまう。ナポリのCKからの連係ミスを見逃さなかったバルセロナは、ロングカウンターで一気にゴール前へ。トラオレからパスを受けたジョルディ・アルバが冷静にGKとの1対1を制し、8分で先制に成功する。13分には再びカウンターから、フレンキー・デ・ヨンクの芸術的なゴールが決まり2点差に。自信と余裕を得たバルセロナのハイプレスに苦しみながら、ナポリはビクター・オシメーンが得たPKをロレンツォ・インシーニェが決めて1点を返すものの(23分)、前半終了間際にCKのこぼれ球を繋いだバルセロナが、ジェラール・ピケの左足で再び2点差に突き放した。
ホームで意地を見せたいナポリに対して、バルセロナはこれが手本だとばかりに丁寧にパスを繋ぎ、ナポリの守備陣形を崩し、59分にはピエール・エメリク・オーバメヤンの容赦ないシュートが決まって勝負あり。終盤にはマッテオ・ポリターノが得意のカットインからの左足シュートでネットを揺らしたが、スコアは2-4で試合終了。バルセロナがELラウンド16に駒を進め、ナポリはヨーロッパの舞台から姿を消すことになった。
「不調でELに回ってしまったバルセロナが監督交代で復調、アウェイで鮮やかに勝利して決勝トーナメントに進出」。展開とスコアから受ける印象はこんな具合だろうか。組み合わせ抽選後には、バルセロナの不調を受けて「ナポリに勝機あり」と評するメディアもあったが、結局はクラブの実力を反映した妥当な結果となった。マラドーナの名を引き合いに出すには、少々盛り上がりに欠ける結末であったかもしれない。
復活の狼煙
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Profile
大田 達郎
1986年生まれ、福岡県出身。博士(理学)。生命情報科学分野の研究者。前十字靭帯両膝断裂クラブ会員。仕事中はユベントスファンとも仲良くしている。好きなピッツァはピッツァフリッタ。Twitter:@iNut