シティに打ち勝った能動的[5-4-1]。スパーズは着々と「諦めない」コンテのチームに
1月下旬からチェルシー(2-0)、サウサンプトン(2-3)、ウォルバーハンプトン(0-2)に3連敗で8位に転落。そのトッテナムが第11節以降リーグ15戦14勝1分の首位マンチェスター・シティに敵地で勝利し(2-3)、しかも今季ダブルを達成したのだからサッカーはわからない。昨季プレミア王者が無敗街道を歩み出した昨年11月初旬、時を同じくして前任者ヌーノから監督の座を引き継いだアントニオ・コンテは、スパーズをどう変えたのか。
2月19日(土)、プレミアリーグ第26節、英国を歴史的な大嵐(ストーム・ユーニス)が襲った直後のマンチェスターの寒空に試合終了を告げるホイッスルが鳴った。この笛の音とともに、交通マヒが起こる中でアウェイの地に駆けつけたスパーズサポーターたちによる歓喜の叫びがエティハド・スタジアムに木霊(こだま)し、チームはマンチェスター・シティ相手にシーズンダブルを達成した。一方、ホームの観衆は突風のようなカウンターから食らったハリー・ケインの2発を含む3失点によって、過ぎ去ったはずの大嵐に襲われる格好となった。
昨年8月、今シーズンのプレミアリーグ開幕戦でディフェンディング・チャンピオンのシティはノースロンドンに乗り込み、ヌーノ・エスピリト・サントが率いるスパーズに返り討ちに遭った。お互い[4-3-3]の布陣で挑んだ試合で、スパーズは相手アンカーのフェルナンジーニョを3トップで消し、内側に絞る両SBにはインサイドハーフ(以下IH)が前向きにプレスに出ていく縦スライドで対応してシティの攻撃を見事に遮断。そしてソン・フンミンがカウンターから決めた一撃を守り抜いて勝ち点3を獲得した。
多くのスパーズサポーターはこの勝利によって新監督ヌーノを信じ、さらに8月は開幕3連勝で首位に立つ好発進となったことで今シーズンへの期待を膨らませたが、現実はそううまくはいかなかった。
ヌーノ体制のスパーズは、[4-3-3]の3トップが中央を締めて相手のCBから中盤へのパスを遮断し、相手のSBやウイングバック(以下WB)には3センターがスライドしてIHが内側からプレッシングをかけるという守備をベースにロングカウンターを狙う、カウンター重視の戦い方を基本としていた。しかし、3トップが中締めを徹底できていなかったことや中盤3枚への過負荷もあり、この戦術はなかなか機能せず。加えてボール保持時のビルドアップでも課題を抱えていた。
名将ひしめくプレミアの強豪勢が完成度の高いパフォーマンスを続ける姿を尻目に、攻撃の突破口が見出せないチームに対し、ホームの観客からは徐々にブーイングが出始める。この頃には、夏の監督人事の際にダニエル・レビィ会長がマニフェストとして掲げた「攻撃的で魅力的なフットボールを取り戻す」という言葉が呪いとなり、それを信じたファンの期待と現実とのギャップがスタジアムを重苦しい空気で包み込んだ。
やがてスパーズは戦績不振に陥り、ヌーノは昨年11月1日に解任。昨夏フットボール部門のマネージングディレクターに就任した監督人事の責任者であるファビオ・パラティチは、かつてユベントスでともに栄冠を手にした名将アントニオ・コンテを招へいした。
ひし形のビルドアップとハイプレスを導入
そしてコンテは、就任直後からサポーターに衝撃を与える劇的な変化をチームにもたらしてみせた。
まず大きく変わったのが、ボール保持時のCBからのビルドアップである。
基本布陣は[3-4-2-1]で、3バックの左右のCBがボールを持った時に、そのサイドのWB、ボランチ、シャドーストライカーとともに4人でひし形を作って前進を試みる。
ここで左右のCBは、相手の中盤の選手がスパーズのボランチに対してどこまでプレスをかけてくるのか? 相手のサイドハーフ(以下SH)はハーフスペースのシャドーか、サイドのWBのどちらへのパスコースを切ろうとするのか?など、相手の動きを見て味方へのパスコースを判断する。
また、相手が前からはめにきてマンマーク気味に2ボランチを捕まえにくる場合は、中央のCBから2ボランチの間を通して一気にCFのケイン、または相手DFラインと中盤ラインの間の中央に顔を出すルーカス・モウラに通す縦パスを積極的に狙っていく。
CBからライン間の2シャドーやケインにボールが渡った後は、そこからシンプルなパスでさらに縦へとスピードアップ。走力に長けたソンの裏抜けや、逆サイドのWBの猛烈なスプリントへのスルーパスを使って素早くゴールに迫る。
このように、ヌーノ時代には見られなかったCBのビルドアップから始まる再現性のある攻撃の形が、コンテの下では明確に見て取れるようになった。
ボール非保持時の守備についても新監督による改善が見られた。11月の就任からリーグ戦2試合目のリーズ戦(○2-1)までは[5-4-1]の守備ブロックを敷くやり方で臨んだコンテ。しかし、その直後のヨーロッパ・カンファレンスリーグ、ムラ(スロベニア)戦以降は[3-4-3]で前線からプレスをかける形に変更した。SBがプレスに行かずDFライン背後のスペースを埋めていた前任者のやり方とは異なり、この頃からWBがダイナミックに相手のSBやWBの選手に縦スライドを仕掛けるようになる。
コンテになってからリーグ戦で初めてハイプレスを採用した12月最初のブレントフォード戦(○2-0)ではこの縦スライドが機能し、続くノリッチ戦(○3-0)でも右ボランチのスキップが相手アンカーのギルモア、右CBのダビンソン・サンチェスが左IHのマクリーンをしっかり捕まえるように試合中に修正を加えながら、プレッシングで主導権を握って勝利を収めた。
さらに次節、新体制下で初のビッグゲームとなったリバプール戦(△2-2)では[5-3-2]で構えてケインとソンの2トップが相手ボランチのモートンを抑え、SBに対しては3センターのスライドでプレスをかけるというヌーノ時代の守備のアプローチを生かした戦い方で、新しい可能性を見せつけた。
キーマン離脱、スパーズ対策、自信喪失…
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Profile
えつし スパーズ・ジャパン
えつし●憧れのスパーズで指導者になるために、2022年9月よりイングランドの大学へフットボールを学びに。ブログにスパーズの試合レビューを投稿し、最近はアナリストもどきとして大学サッカーの現場で日々勉強中。Twitter→@Etsushiiii_fta スパーズ・ジャパン●創設20年を迎えたクラブ公認サポーターズクラブ「スパーズ・ジャパン」では、日本に住むスパーズ・サポーターのコミュニティ作りを後押しし、観戦会やフットサル大会などのイベント開催や、スパーズ関連ニュースをWEBやSNSで発信している。