浦和レッズは今季からスペイン人のジョアン・ミレッGKコーチを新たに迎え、新たな形でのGK陣の強化に乗り出した。FC東京などでも実績を残してきた名指導者は、長いキャリアの中で積み上げた独自の指導理論を持つ理論重視の“学究肌”の一面を持つ。浦和の新時代を目指す西野努テクニカルダイレクターが欲したのは、単なるコーチにとどまらない影響力だった。
学究肌のGKコーチ
それはとても不思議な光景だった。
GKが疲れるのは、試合ではなくて練習の時だとよく言われる。キーパー練習と聞いて思い浮かべるものは、際どいコースにボールを何度も蹴る、連続のアクションを強いるような負荷が高いメニューだろう。
ところが、ジョアン・ミレッGKコーチの始めたトレーニングにおいて、そういった動きが一向に見られないのだ。
「シュウ(西川周作)が面白い言い方をしていて、『学者と現場の違いはあります』と。彼の学者理論は、実践して30年40年積み重ねてきたものだから」(西野努テクニカルダイレクター)
学者というのは言い得て妙なのかもしれない。
沖縄キャンプ初日の午前練習での不思議な光景、最初の一コマはまさに『講義』だった。まずはひたすら頭を使う。ひたすらポジショニングについての説明が続き、ゴールの前を移動して立つことを繰り返す。トレーニングが始まってから1時間弱、ボールは一切登場しなかった。
今季大幅に選手が入れ替わったことが注目される浦和だが、選手だけでなくコーチ陣の再編成も行った。その中で最も大きく様変わりしたのが、GKに関わるスタッフだ。
ジョアン・ミレッ新GKコーチに加えて、現役を引退したばかりの塩田仁史アシスタントGKコーチ、そして在原正明通訳が新たにスタッフリストに加わった。この指導体制を「今年の本丸の一つですから」と西野TDは語る。
喫緊のミッションはシンプルにGK陣の『技術』向上だ。浦和は20シーズンを総括する際、監督交代のひとつの理由として「成長カーブ」を挙げていたが、それはチーム全体のことだけを指すわけではないだろう。ベテランの西川周作がピークを過ぎたという見方をされるようになり、若手のホープである鈴木彩艶にしても、ポテンシャルこそ感じさせるものの、技術的には粗さも目立っていた。そこにやって来たのがジョアンだ。
「周作も自分の弱みを徐々に実感してきていて、でもどうしたらと悶々としていた。ジョアンがどんな答えを提示してくれるか」(西野TD)
細部に宿る『ジョアン流』
そうして始まったキャンプの最初のトレーニングが、前述のようなメニューである。初日の午前はひたすら、ポジショニングと移動の際のステップで終わった。午後もひたすらポジショニングの確認を行い、体の向きやステップ、歩数も頭と体に叩き込む。……
Profile
ジェイ
1980年生まれ、山口県出身。2019年10月よりアイキャンフライしてフリーランスという名の無職となるが、気が付けばサッカー新聞『エル・ゴラッソ』浦和担当に。footballistaには2018年6月より不定期寄稿。心のクラブはレノファ山口、リーズ・ユナイテッド、アイルランド代表。