TACTICAL FRONTIER
サッカー戦術の最前線は近年急激なスピードで進化している。インターネットの発達で国境を越えた情報にアクセスできるようになり、指導者のキャリア形成や目指すサッカースタイルに明らかな変化が生まれた。国籍・プロアマ問わず最先端の理論が共有されるボーダーレス化の先に待つのは、どんな未来なのか? すでに世界各国で起こり始めている“戦術革命”にフォーカスし、複雑化した現代サッカーの新しい楽しみ方を提案したい。
ピッチのすべてを把握する視野と、繊細なボールタッチ。グアルディオラ時代から中盤の軸としてゲームを指揮し続けるセルヒオ・ブスケッツのスペイン代表でのトレーニング動画が、先日話題になった。パス回しのトレーニングで、中央のポジションのブスケッツは正確なボールタッチで簡単に味方にボールを預けていく。その技術や守備選手のポジションを把握する能力も流石の一言だが、もう1つ印象に残ったのは無駄な動きがまったくないスムーズなターンだった。まるで無重力でプレーしているかのように、ブスケッツの体は自然にボールが来た方向とは逆を向いている。
このように、狭いスペースでターンする技術は中盤の密度が限界まで高まりつつある現代フットボールの鍵だ。中盤の選手が相手のプレッシングを剥がすには、ターンこそが最も重要な技術となる。いくらパスのテクニックがあっても、前を向けなければ攻撃の起点にはなれないからだ。そこで今回は、ターンの技術を可視化しようとする科学的なアプローチを紹介しよう。
「ジェラードの右腕」が得た気づき
フットボールというスポーツにおいて、花形になるのは華麗なステップで相手を翻弄するドリブルかもしれない。
しかし一方で、統計データは興味深い事実を再認識させてくれる。
フットボールのゲームで、相手との1対1を集計していくと「相手を背負った状況」が75%以上を占めるというのだ。これを引用し、自らのブログで考察していたのがマイケル・ビール。リバプールにペップ・ラインダースを推薦し、今やスティーブン・ジェラードの右腕となった男である。彼はヨーロッパ最上位のUEFAプロライセンスの保有者であり、リバプールでユースコーチとして経験を積むと、クラブのレジェンドであるジェラードとスコットランドの地で革命の旗手となった。現在はジェラードの右腕として古豪アストンビラでアシスタントコーチを務めている。
ビールはフランスの育成機関クレールフォンテーヌの講演でそのデータを知らされたことで、重要な気づきを得たという。ティエリ・アンリのような選手を育てたのは、個人戦術に傾倒したフランスのトレーニングだと考えられている。ビールはそこから、どのように背負った状態でのプレーをトレーニングさせるべきかを考察していったのだ。
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Profile
結城 康平
1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。