突然だが、ここで1つゲームを行おう。これはひらめきクイズだ。某国立大学の王を名に冠したテレビ番組の出演者にでもなったつもりで聞いてもらいたい。
「NEC、シャープ、日立、三田工業(現・京セラ)、TDK、JVCケンウッド……ここに挙げた日本企業の共通点は?」
こう問われた時、あなたは何を想像するだろう。即答できる方は相当な知力の持ち主と言える。わからない方のために、ここでヒントを差し上げよう。
「トヨタ、マツダ、横浜ゴム、楽天、任天堂、セガも同じ共通点を持っている」
ここまで来ればフットボールを愛する諸氏ならおわかりだろう。答えは「欧州5大リーグのフットボールクラブの胸広告スポンサーになったことがある」というものだ。
時代を映す鏡としての胸広告
1970年代初頭に欧州トップリーグで初めてアイントラハト・ブラウンシュバイクが胸スポンサー広告としてアルコールメーカーのイエーガーマイスターを採用した。それ以来、フットボールとシャツのスポンサー広告は切っても切れぬ縁になった。
歴史が示す通り、黎明期より日本企業が大きく貢献してきたのは周知の事実だ。オールドファンであれば“キング”ケニー・ダルグリッシュがHITACHIのロゴを胸にピッチを疾走する姿や、クラス92の面々とサー・アレックスがトロフィーを掲げる写真に刻まれたSHARPの文字を覚えている方もいらっしゃるだろう。時には企業名そのものが現地放送コードに引っかかってしまいヨーロッパの大会で着用できなくなるという冗談のような笑い話もあるほど両者の関係は蜜月だった(誤解なきよう補足すると、私はセガとドリームキャストを愛している)。
胸広告の歴史はいくつかのトレンドに分類することができる。地理的に見れば、その時代の隆盛を写す鏡を果たしてきた。日本経済華やかなりし80年代には日本企業がこぞって海外のフットボールに出資し、そのバブルが崩壊するとアジア新興企業が台頭した。プレミアリーグではサムスン(韓国)やチャン、キングパワー(タイ)がその好例だろう。エミレーツやエティハド、トルコ航空などの中東資本、そして中国資本の流入はごく最近のトピックスと言える。
社会問題に発展したアルコール広告
商品ベースで見ると、80年代から90年代の英国ではアルコールメーカーと近い距離を保ってきた。思いつく限り名を挙げても往年のスパーズファンに愛されたホルステンやリバプールのカールスバーグ、タインサイドの地場産業としてニューカッスルを支援したニューカッスル・ブラウンエール、クアーズ(チェルシー)やチャン(エバートン)など枚挙に暇がない。
しかしフーリガンが社会問題となった80年代にイングランドおよびウェールズで1985年スポーツイベント法が施行され、スタジアムでのアルコール販売や飲酒者の入場が規制されて以来、その関係に陰りが見え始めた。フランスでいち早く91年に酒類広告を禁止するエバン法が制定されると(リバプールがカールスバーグの胸広告がないクラシックスタイルでスタッド・ベロドロームに登場した時は奇妙な感覚を覚えたものだ)、90年代後半にはアーセン・ベンゲルがプレミアリーグにやってきて選手たちからアルコールを排除した。
これまでフットボール観戦のメインターゲットとされてきた「後期若年層から前期中年層の男性ファン」への訴求手段としての胸広告という観点で見ればアルコールメーカーのスポンサーシップは強力なものだったと言えるが、未成年をアルコールに近づけるという意味では社会的に問題視された。英国では2007年に業界団体のポートマングループが大規模な広告規制に乗り出した。公式WEBサイトに記載されている最新ルールでは「アルコール飲料メーカーがスポンサーに付く場合、18歳未満の観客が全体の25%を超えてはならない」とある。結果、17年にプレミアリーグのすべてのシャツからアルコールメーカーのロゴが姿を消した。
プレミアから賭博広告が消える日も近い?
取って代わったのはオンラインブックメーカーだった。21世紀に入って2度目となる02-03シーズン、プレミアリーグでフルアムが英国発祥のオンラインギャンブル企業BetFairのロゴを胸に刻んで以来、このトレンドはイングランドはもとより欧州各国、そして全世界へと燎原の火のように広がり続けた。06年にBwinがACミランと契約して名を上げると、翌年にはレアル・マドリーが続いた。
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Profile
Yuki Ohto Puro
サミ・ヒーピアさんを偏愛する一人のフットボールラバー。好きなものは他人の財布で食べる焼肉。週末は主にマージーサイドの赤い方を応援しているが、時折日立台にも出没する。将来の夢はNHK「映像の世紀」シリーズへの出演。