1月23日に行われたエールディビジ第20節、首位PSVが1ポイント差の2位アヤックスをホームに迎えた大一番。堂安律も先発出場した試合は1-2で決着し、勝ち点48(15勝3分2敗・61得点5失点)としたアヤックスが同46(15勝1分4敗・48得点26失点)のPSVからトップの座を奪ったのだが、その決勝ゴールに繋がるプレーがオランダで物議を醸すことになった。敗者にとっては受け入れがたい疑惑の判定が下された背景、反響とともに、現地で取材した中田徹さんがレポートする。
堂安「もっといい結果がふさわしかった…」
PSV対アヤックスの首位攻防戦は1-1のまま、74分を迎えた。アヤックスの左SBブリントがライン際でトラップミスをするも、なんとかボールを持ちこたえ、攻撃の起点を作った。その後のアヤックスのパスワークは鮮やかなもの。最後は右SBマズラウイがペナルティアークから強烈な左足シュートを叩き込んだ。
それから、即座にVARによるチェックが入った。記者席に置かれたモニターを見ながら、私は「ブリントがパスを出した瞬間、ボールは完全にラインを出ているな。これはノーゴールだな」と確信した。PSVの関係者が「やったあ! ゴール取り消しだ!!」と叫んだ声は、ピッチの上の選手たちにも届いていた。
微妙な判定とは思えなかった。その割にVARの結論がなかなか出ない。ようやく3分後、マケリー主審はアヤックスのゴールを認めた。PSVとしては到底受け入れられる判定ではない。ロジャー・シュミット監督は第4審判に、こう毒づいた。
「優勝盾をアヤックスにくれてやれ! 今日中だ!!」
肝心の場面を近くで見ていた堂安律も、副審に対して執拗に抗議し続けていた。
結局、この疑惑のゴールが決勝点となってアヤックスが1-2の勝利を収め、リーグ第20節目にしてPSVから首位の座を奪った。試合終了直後、テレビのフラッシュインタビューを受けたPSVのファン・ヒンケル主将は映像を見ながら「完全に出ているじゃん。スキャンダルだ」と憤然とした。
受け入れがたい敗北に関し、堂安は自身のインスタグラムで「もっといい結果がふさわしかった……。許されるなら、自分の今の気持ちをすべて言ってしまいたい。それでも一つだけ間違いなく言えるのは、僕たちのパフォーマンスを誇りに思っている」と英語で記した。
エリック・テン・ハーフ監督が「ボールがサイドラインを割っていたかどうか、私にはハッキリわからない」と認めたように、アヤックスサイドからしてもゴールを取り消されていてもおかしくないシーンだった。ゴールを決めてヒーローになったマズラウイは2019年3月のCL、レアル・マドリー対アヤックス(1-4/ラウンド16第2レグ)を思い出したという。
「ドゥシャン(タディッチ)が決めたレアル・マドリー戦のゴールは、僕のサイドライン際でのプレーがVARで検証された。ドゥシャンが『ボールは出てたの?』と訊いてきて、僕は『わからない』と答えた。今回は僕がデイリー(ブリント)に訊きに行ったが、やはり『わからない』という返事だった」
ボールがタッチラインを割っていたかどうか、VARの担当審判は結論を出すことができなかった。試合当日、オランダで放映された『ストゥディオ・フットボール』(NOS局)という討論番組の解説動画を見てほしい。
これを見ると、カメラの角度によって「完全にボールがラインを割っている」と思われるシーンでも、実際にはオンプレーの場合があり得ることがわかる。今回のような「ボールがラインを割ったかどうか」の判定に対し、VARが介入できるのは「100%、判定が間違っている」という証明ができる時のみ。今回はサイドラインの真上、ないしは真後ろから撮った映像がなく、現地の判定を尊重しなければならなかった。
残念ながら、今回のビッグゲームは本来のサッカーの姿とはかけ離れたところで勝負が決してしまった。しかし、試合後の記者室では「ゴールライン・テクノロジー同様、今後はサイドライン・テクノロジーも必要になるのではないか」という議論が起こり、PSVのFWガクポが「必要かもしれない」、シュミット監督が「そんなの必要ない。副審が正しい判定を下せばいいだけ」と答えるなど、これからもトピックに挙がりそうな話題になっていること。さらに、アヤックスとPSVの優勝争いが、このワンプレーで決まってしまう可能性もあることから、今回、詳細をお伝えることにした。
秘策[4-3-1-2]対ゴールデン・トライアングル
肝心のサッカーはどうだったか、PSVの視点からレポートしよう。……
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中田 徹
メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。