日本一マニアックにVARについて掘り下げました!扇谷健司氏独占インタビュー後編
Jリーグは2020シーズンより全試合でVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)導入を開始したが、コロナの影響によりシーズン途中で運用を断念した。2021シーズンを迎え、あらためて開幕節からシーズン終了まで1シーズンを通してVARを運用した。2021年12月10日に第5回レフリーブリーフィングにてVARの総括が行われたが、本稿ではサッカー競技規則に詳しいライターの竹内達也氏がJFA審判委員会Jリーグ審判デベロップメントシニアマネージャー扇谷健司氏に、より詳しく聞く形で独占インタビューを行った。世界的に主流であるオフサイドの3Dラインが、日本では2Dラインになっていることによる運用の違いや、シーズン中どのように運用が変わっていくかなど深く掘り下げて聞いた後編。
——後半は選手・サポーターが持っている違和感に関して聞かせていただきたいです。まずはオフサイドディレイについてです。先日のメディアブリーフィングでは「明らかにオフサイドだとわかるような場面では旗が上がるようになった」という話もありましたが、フラッグアップの考え方についてどう捉えていますか。
「実際のところ、何かを大きく変えてくださいとは言っていないんです。やはりまずは現場でどう正しいジャッジをするかが大事だと思っていますし、ギャンブルのようにじゃないですが、旗を上げ過ぎないほうがいいとは思っています。そもそもディレイは我われの問題というより、VARのシステム自体の問題でしょうがない部分もあるんですよね。本当に申し訳ないですが、いったん待ってから上げざるを得ない。ヨーロッパのリーグを見ていても、EUROを見ていても、やっぱり日本とそう変わらないなという思いも正直あります。そこはサポーターの方々にも理解していただきたいです。
また、例えば横浜FMのチアゴ・マルチンス選手は前半戦はかなり審判員にプレッシャーをかけてきていましたが、後半戦はそこまででもなかったと思います。選手たちのトーンを見ていても、シーズン序盤に比べるとみなさん理解し始めたのかなという印象があります。ただ、その中でも『こんなに位置が開いているのに』とか『ボールの方向がこんなに外に行っているのに』というところに関しては、少し審判員に話をさせてもらったりはしました。あくまでも微調整ですけどね。うちの場合、副審担当の宮島(一代)さんがいらっしゃるので、中心にいろいろやっていただきました。その結果、実は最後の8節でVARオンリーレビューって2回しかなかったんです。それまでは多かったんですが、現場でしっかりジャッジをしようとあらためてやっていった成果なのかなと思っています」
——確かに際どい場面でチェックが入っても、結果的に副審が正しかったという場面を何度も見た気がします。試合中継では際どい判定になるとVARにフォーカスされがちですが、実は副審のジャッジが素晴らしかったりするんですよね。
「確かに、その前にちゃんとジャッジしているところも見てほしいですね(笑)」
——その一方でオフサイドディレイの件で言えば、危険なコンタクトプレーが増えてくるという問題点は避けられないと思います。またチアゴ選手の件で言えば「なぜあの位置まで戻らないといけないんだ」という不満もあるように感じました。
「GKとの接触は本当に難しいなと思います。VARがなかった頃は接触しそうなら止めてあげることができたんですが、今はそういうことができない状況になってしまって、大きな事故にならなければいいなと思っています。やはり我われも、選手が大きなケガでフィールドを去る姿は見たくない。ただJ1ではこういう形になっていて、なかなか難しいんですよね。そこに関してはどうしたらいいのか……。もし審判員がプレーを止めてしまったら、実は判定が間違っていて、チャンスが消えてしまいましたとなってしまう怖さもあります。そこは我われもそうですが、やっている選手のみなさんもお互い理解しながらプレーするしかないのかなと。GKとFWの接触を見たくないのは我われも同じで、みんなが難しく思っているところだと思います」
——VARへの理解は徐々に広がっていますが、ここがVARとサッカーの魅力とが一番対立するところかもしれませんね。
「そうだと思います」
——ディレイの件で、もう一つ気になっていたことがあります。オフサイドではなくゴール前のファウルでよく見られるんですが、ファウルがあった直後に笛が吹かれて、いったんプレーが止まった後、VARの介入でファウルが取り消されると、再開はドロップボールになりますよね。ここで「オフサイドディレイ」ならぬ「決定機ディレイ」みたいなのが必要になってくると思うんですが、そのあたりはいかがでしょうか。
「FIFAでは、すでにそういったことが言われていますね。例えばシュートを打ちました、ペナルティエリアで手に当たってピーって吹きました、そのボールがこぼれて別の選手がシュートを入れました。ただ、映像を見たらハンドじゃなかったと。こういう時はVARがなくてもそうなんですが、まずアドバンテージ的に笛を待ったりしますよね。オリンピックでもそういう話をしていて、ゴール前のそういった場面は『ディレイするんだ』ということになっていました。すでに佐藤隆治レフェリーはそういったこともやっています。
日本のレフェリーとしてまだ事象はそれほどないですが、笛を吹いたことで利益がなくなってしまう怖さがありますし、そういったところもさらにレベルが上がっていくと思います。レフェリーって100試合やって1試合しかないような事象もあるので、難しいところです。ただ、そこでうまくできるかどうかが一流のレフェリーとの違いだと思います。準備は常にしながら、ペナルティエリアの中でどこまで見ておくかを考えないといけないですよね」
——とても参考になります。ここからは今季発生した特異な事例についてもお話を聞きたいのですが、徳島のマルセルコーチがVARの介入で退場になった例(※)がありましたよね。映像の右下ギリギリで収められていた行為で難しいジャッジだったと同時に、画期的なレビュー事例だったと思います。あれはどのような経緯だったのでしょうか。……
Profile
竹内 達也
元地方紙のゲキサカ記者。大分県豊後高田市出身。主に日本代表、Jリーグ、育成年代の大会を取材しています。関心分野はVARを中心とした競技規則と日向坂46。欧州サッカーではFulham FC推し。かつて書いていた仏教アイドルについての記事を超えられるようなインパクトのある成果を出すべく精進いたします。『2050年W杯 日本代表優勝プラン』編集。Twitter:@thetheteatea