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就任2カ月で更迭。ジェノアはシェフチェンコ監督に何を求めていたのか?

2022.01.23

「結果でも内容でも向上しなかった。決断は早い方がいい。選手たちには、フィオレンティーナを相手に戦う力は残っていなかった」。これは1月16日、『ガゼッタ・デッロ・スポルト』に対してジェノアのヨハネス・スポルスGM(ゼネラルマネージャー)が語った、アンドリー・シェフチェンコ監督の解任理由だ。彼らはセリエA第22節フィオレンティーナ戦が行われる2日前の15日、今季2度目の指揮官更迭に踏み切っていた。

 昨年9月にアメリカ資本の「777パートナーズ」がクラブを買収し、変革の第一弾として連れてきたビッグネーム。現役時代の活躍については説明不要のバロンドール受賞者で、指導者としてもウクライナ代表を率いて昨夏開催のEURO2020でベスト8進出を果たすなど、国際的な実績を築いていた。しかし11月7日にジェノアの監督に就任した後、リーグ戦では0勝3分6敗、勝ち点はわずかに3。1月13日のコッパ・イタリア(ラウンド16)では古巣のミランと対戦し、延長戦に持ち込む接戦の末に惜しくも敗れたが(3-1)、そのパフォーマンスも再考の対象とはならなかった。そしてフィオレンティーナ戦を前に、クラブは指揮官のクビを飛ばした。

 しかしこれは荒療治となるどころか、結果的に逆効果となった。下部組織のチームを指導していたアブドゥレイ・コンコに暫定指揮を任せた結果、6-0という酷いスコアで大敗したのである。

 これらの顛末を見て一つの疑問が湧く。いったい彼らは、何がしたかったのか。そもそもシェフチェンコ招へいの時点から、何を指揮官に期待していたのだろうか。

ウクライナ代表監督(2016年7月〜2021年8月)を経て、初めてクラブチームを率いた45歳のシェフチェンコ。ジェノアはセリエA第23節を終えた現在、1勝10分12敗・20得点45失点で19位に沈んでいる

自分のサッカーを展開するには困難な環境

 新経営陣がシェフチェンコに白羽の矢を立てた理由は、選手として、また指導者として国際的なキャリアの中で築いた人間性にあった。アルベルト・ザングリッロ会長は、地元メディアに対してこう語っていた。

 「別に誰かのお気に入りだったとか、売り込みをかけられたとか、そんな理由ではない。投資の案件ではきちんとスカウティングをし、検討を重ねて決める。彼はスポーツの人間であり、バロンドール受賞者であり、厳しく、また真剣な人物だ」

 11月の就任会見の際には、777パートナーズのジョシュ・ワンダー氏も「彼はビッグネームだが、我われは名前で選んだわけではない」と強調していた。しかし今となっては余計に、競技面から見た判断のもとで招へいがなされていたか疑わしいと思わざるを得ない。当時、刷新されたフロントの中にチームの強化責任を担える専門家はいなかった。そしてその影響を、シェフチェンコが思い切り被っていた印象は否めないのだ。

 ただでさえ練習の時間が十分に取れず、自分のアイディアを反映させていくことが難しい途中就任。それに加えて、自分のスタイルであるサッカーを展開するための戦力が整っていない。シェフチェンコはこんな現実の中に放り込まれ、自分の構想を傍に置いてサッカーを合わせざるを得なかった。

 彼がウクライナで実績を築いたのは、4バックをベースにした攻撃的なサッカーだった。[4-3-3]あるいは[4-1-4-1]のシステムを基本としながら、コンパクトな組織守備とテクニカルでワイドな攻撃を両立させる。組み立てはショートパス主体で、選手のポジションチェンジは攻撃時においてある程度許容している。

 しかしジェノアには、この実行に見合った選手がいなかった。選手の数は多いが、ウイングやSBを任せられる実力者は不在。[3-5-2]のシステムを前提とした補強がなされ、それ以外には対応できないようなメンバーの編成となっていたのである。

 前任のダビデ・バッラルディーニ監督から引き継いだ時のチーム順位は降格圏付近で、いきなりシステムを変えてリスクを冒せる状況でもない。加えて、主力の多くを故障で欠いてもいた。したがってシェフチェンコ監督とコーチングスタッフにとっては、前任のサッカーをそのまま踏襲する以外の選択肢は残されていなかったのだ。

 当然そんな状況下にあっては、芳しい成績を残せるはずもない。負けないことが最優先で、大崩れしないサッカーを狙う。第19節でアタランタから勝ち点1(0-0)をもぎ取るなど守備のベースは整いかけていたが、故障者続出のチーム事情が追い討ちをかけてそこから先の上乗せができない。メンバーを固められず、毎試合のように変えざるを得なかった。12月10日には、地元ファンの評価を大きく左右するサンプドリアとのダービーにも1-3で敗れた。

ジェノバダービーのハイライト動画。サンプドリアのCBとして吉田麻也もフル出場した

 その時ワンダー氏は「ジェノアの将来にはふさわしい人間だ」とシェフチェンコの続投を明言。そして指揮官は年末年始の中断期間を前に4バックへの移行を示唆した。その時期には、強化責任者として前出のスポルスGMがジェノアに招へいされたこともあり、監督とクラブの方針が噛み合っていきそうな雰囲気が外からは感じ取れた。

 ところが、内部ではそうはいっていなかったようだ。4バックにシステムを変更し、その実行に適した戦力補強を冬のメルカートで行うという意思まではシェフチェンコとフロントの間で共有されたものの、監督の続投についてフロントは別の考え方をするに至った。

“解任決定”後のミラン戦で光明も…

……

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アンドレイ・シェフチェンコジェノア

Profile

神尾 光臣

1973年福岡県生まれ。2003年からイタリアはジェノバでカルチョの取材を始めたが、2011年、長友のインテル電撃移籍をきっかけに突如“上京”を決意。現在はミラノ近郊のサロンノに在住し、シチリアの海と太陽を時々懐かしみつつ、取材・執筆に勤しむ。

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