アルフォンソ・デイビス(21歳/バイエルン)、ジョナサン・デイビッド(22歳/リール)を筆頭に才能豊かな若手タレントが育ち、W杯北中米カリブ海予選で首位に立っているのがカナダ代表だ。なぜ、カナダの育成が成功しているのかを結城康平氏が読み解く。
カナダという国について、多くの日本人が持っているイメージは少し曖昧かもしれない。個人的にも、浮かんでくるのは「メープルシロップの名産地」「豊かな自然の国」「人気の留学先」というようなキーワードだ。米誌『U.S. News & World Report』が発表している「世界最高の国ランキング」で2021年に首位に輝いたカナダは、「暮らしやすさ」などの項目で高い評価を得ている。広大な国土で知られている同国には3800万人の人々が暮らしており、人口密度の低さも特徴的だ。
そんなカナダのサッカーは、急激な盛り上がりの中にある。彼らが最大の目標に掲げているのが、W杯北中米予選で、1986年メキシコ大会以来となるW杯出場だ。北中米予選では歴史的に2強として君臨するメキシコとアメリカに続き、守護神ケイラ―・ナバスを輩出したコスタリカやパナマも突破を狙っている。しかし、そんなW杯北中米カリブ海予選決勝ラウンドで、2強を上回り首位を走っているのが「ダークホース」のカナダだ(2022年1月17日時点)。
加速するMLS経由のヨーロッパ行き
バイエルンに所属するアルフォンソ・デイビスは「これまで、ホッケーの国と言われ続けてきたカナダを変えたい。カナダの若い選手たちにとっての希望となるべく、カタールで何かを成し遂げたい」と語る。
カナダ代表として、最も有名になったのはドイツ王者でブレイクした彼だろう。欧州のトップクラスに君臨するチームで主力となる攻撃的SBは爆発的なスピードを武器にしており、アフリカ大陸にルーツを持つ選手だ。ガーナの難民キャンプでリベリア人の両親から生まれた彼は、5歳の頃にカナダに移住する。2017年に正式にカナダ国籍を取得した彼は、傑出したフィジカルで相手を圧倒していく。
欧州でデイビスに続き、注目を浴びているのがフランスリーグで活躍するジョナサン・デイビッドだ。彼はアメリカのニューヨークでハイチ人の両親から生まれ、6歳の頃にカナダに移住している。ベルギーやフランスも選手の育成には定評があるが、移民の多いカナダには多様性のある選手たちが集まる。彼らのフィジカルやテクニックを磨くことで、個としてトップリーグに通用する選手たちを輩出しているのが近年のカナダ代表だ。
そんなカナダ代表の選手たちはMLSを経験してヨーロッパに渡るパターンが大半で、アメリカにヨーロッパのスカウトが目を光らせていることはカナダ人選手にとっても大きい。スティーブン・ジェラードやアンドレア・ピルロが活躍した「選手が引退前にプレーするリーグ」だった時代と比べると、MLSは才能の宝庫として認識されるようになってきている。
実際にMLSのコミッショナーであるドナルド・ガーバーも「MLSは若い選手を育成し、獲得するリーグに変化しつつある」と述べている。かつてはピルロやランパードの獲得で知られたニューヨーク・シティFCも、シティ・フットボール・グループ(CFG)のコネクションを使ったスカウティングによって、世界各地から優秀な若手選手を集めている。
アルゼンチン出身のバレンティン・カステジャーノス(23歳)やU-17ブラジル代表のターレス・マグノ(19歳)を獲得しているように、将来に投資するアプローチにシフトしているのだ。レッドブル・グループやCFGが保有しているクラブがMLSに所属していることで、そのチームでプレーする選手を視察するスカウトは「MLSに所属する他のチームを見る機会」も増やしていく。結果的に、MLS自体が若きタレントがあふれるリーグに変化しつつある。18歳のアメリカ代表FWリカルド・ペピが、ドイツのアウグスブルクにクラブ史上最高額となる移籍金で加入した事実は、MLSの価値が大きく高まりつつあることを象徴している。
スミルニオティス兄弟が創設したシグマFCという育成機関
また、カナダ国内でも育成改革は進んでいる。……
Profile
結城 康平
1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。