グアルディオラの戦術を具現化する「個のスキル」。鈴木大輔が分析する、シティのCBコンビの凄み
近年、自らメディアを持って発信をする選手が増えている。様々な方向性のコンテンツがある中、センターバックのプレーを選手視点で分析するという独自の試みをしているのがジェフ千葉の鈴木大輔選手が開設した『センターバック研究所』だ。今回は、同チャンネル内でマンチェスター・シティのCBのプレーについて詳細な分析を披露している鈴木選手に、グアルディオラの戦術を実現するシティのCBたちのスキル、その凄みを現役選手の視点で語ってもらった(取材日:2021年5月21日)。
『フットボリスタ第85号』より掲載
YouTubeチャンネル開設の理由
──最初に、ご自身で開設されているYouTubeチャンネル『センターバック研究所』を始めたきっかけを教えてください。
「もともと海外サッカーを見ながらCBの動きを自分で分析していたんですけど、動画を作成するとなるとさらにしっかり取り組めるじゃないですか。あとは、CBをやっている子供たちに対して『こういうことを考えてやっているんだよ』というところを伝えられるかなと。現役の選手だからこそやらなきゃいけないとも思っていたので、始めました。将来的にはCBのアカデミーを立ち上げたいんですよね。ストライカーやGKに特化したものはありますけどCBのものはないですし、試合のハイライトを見てもFWのシーンばかりでプレーを取り上げられることがかなり少ない中で、自分たちもCBをやっていますから」
── 動画を拝見していても、子供たちに向けて発信したい想いがかなり強いですよね?
「そうですね。プロのCBを見ても、小学生の頃はFWをやっていた選手が多いんですよ。でも、CBは座学があってもいいぐらい深いポジションなので、ボジショニングや全体をつかむ目を養うところは絶対必要なんです。FWをやっていた選手がプロに近づくにつれてCBをやるようになって、そこから全体を俯瞰で見られる守備ができるようになるのと、小さい頃から『CBってこういうものなんだ』と思ってやっているのだと、“発射台”が全然違うんですよね。そのスタートポジションを上げたいなとは思っています」
── ということは、鈴木選手も小学生の頃はFWでしたか?
「もうバリバリの点取り屋でした(笑)。だいぶキャラ変しましたよ。CBもやりたくなかったところから始めていますしね。でも、CBの何が面白いのかは、やりながら自分で気づいてきましたし、今は自分たちでいろいろなことを発信できる時代なので、そういうところは伝えていきたいですね」
── ヨーロッパのサッカーはかなりご覧になっていますか?
「凄くこまめには見ていないですけど、自分が気になっているチームは見ますね」
── どういう視点で見るゲームを選ばれますか?
「僕はスペインでプレーした経験があってその影響を受けているところがありますし、知っている選手も多いラ・リーガは結構見ます。あと、最近はマンチェスター・シティが凄く気になっていたので、プレミアも見るようにはしています」
守備面の特徴
── 今回は動画でも触れられていた、シティの守備戦術を伺いたいと思っていますが、まずチーム自体の印象はいかがですか?
「グアルディオラのサッカーなので、ボールを大切にして、というのが大前提としてあるとは思っています。ボールを握るのが最大の守備というイメージはありますね」
── ちなみに、チームのやり方としては参考になりますか?
「いや、参考にはならないですね(笑)。レベルがちょっと高過ぎるのと、その試合の相手によってもやり方を少しずつマイナーチェンジしていて、例えばスターリングをサイドに持ってくる時もあればシャドーに持ってくる時もありますし、CBも今は落ち着いていますけど、シーズン序盤はいろいろな選手を回しながらやっていました。システムを変える時もあってあまり参考にはならないですけど、この間自分で動画解説したカウンターの対応のように、要所要所の局面は参考にしています」
── 守備のオーガナイズの特徴はどうご覧になっていますか?
「基本は前から行きたいチームで、攻撃のポジショニングが良いので切り替えを速くしていけるというところはもちろんあるんですけど、CBも結構リスクを負っていて『これは裏をやられるんじゃないかな』というタイミングでも前に出ますよね。だからこそ、そこで剝がされた時のカウンターの対応が大事になってくる中で、後ろで固めた時のブロックの作り方も凄いですし、前線での2度追いの精度も高くて、それをあの選手たちにやらせるのが凄いなと思っています」
── あのレベルのアタッカーたちが、あれだけ守備をやりますからね。
「守備の時に結構フラフラして、カウンターの時に誰にもつかまれないでドリブルしたい、みたいな選手が多いはずなので、そこは練習での落とし込み方が凄く気になっているところではあります。切り替えを速くして、すぐ奪いに行くことが大事なのはみんなわかっているんですけど、実際にそれをできているチームとできていないチームがあって、最近で言うと川崎フロンターレもそういうところは凄いなと。その時に誰がボールに近くて、どの選手が行って、その行った選手に対して次の選手のサポートがどの角度にいるのか、みたいなことは、相当やらないといけないんだろうなと見ていて感じます」
── それは意識の問題でしょうか? それとも、ある程度やり込んで体に覚えさせるのでしょうか?
「どっちもだと思うんですよね。剥がされた時に戻る守備のポジショニングがシティは凄く良くて、たぶんスタジアムで上から見た時には、空いているスペースをしっかり埋めているんだろうなと。もちろん最終ラインの遅らせる対応も素晴らしいですけど、無理してダッシュで戻っているかと言ったら、そうでもないように見えるんですよ。剥がされた時には100%のスプリントで戻ると思われがちですけど、ちゃんと空いているところを埋められる守備だったら、本当に無理しなくてもいいというか」
── ラインコントロールで言うと、相手にキリアン・ムバッペがいても強気のハイラインを保っていて、Jリーグにもあそこまでのチームはないと思いますが、あのライン設定は率直にどう思われますか?……
Profile
土屋 雅史
1979年8月18日生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社。学生時代からヘビーな視聴者だった「Foot!」ではAD、ディレクター、プロデューサーとすべてを経験。2021年からフリーランスとして活動中。昔は現場、TV中継含めて年間1000試合ぐらい見ていたこともありました。サッカー大好き!