「Jリーガーはクラブのスポンサーをやっている銀行の住宅ローンの審査に通らないこともある」
これはつまり、夢の職業であるはずのプロサッカー選手が銀行から信用を保証されていないということだ。Jリーガーの社会的地位を向上させるために、サッカー界としてできることは何なのか? ゴールドマン・サックス出身でJリーグ史上最年少の31歳でFC琉球の社長に就任、現在はそこでの経験をもとにクラブ経営の外部コンサルを行っている三上昴氏と一緒に考えてみたい。
Jリーガーは僕の憧れの職業です。それは今でも変わりません。そして今の子供たちにとってもJリーガーという仕事への憧れは変わっていないと思っています。
でも実際にこの世界に入ってみて、感じたことはタイトルにあるような「Jリーガーの社会的な地位」に対しての驚きでした。そのきっかけになったのは、とある選手が住宅を購入する際に、クラブのスポンサー企業でもある銀行にローンの審査を依頼したところ、審査結果が不合格だったことです。
サッカー選手という職業の特異性
クラブをスポンサーとして支援している銀行でさえ、所属する選手たちの信用を保証できないのか、という驚きです。もちろんサッカー選手という職業の特異性や所得の安定性などを踏まえると、銀行の立場として長期間でのローンを組むことの保証に難色を示すことは理解できます。
とはいえ、スポンサー企業となると、多少の理解はあるのではないか、と考えていたのですが、そう簡単に事は進まなかったのが現実です。
サッカー選手という職業の特異性とは、「来年の保証がない」ということに尽きると思います。それは監督が代わって、戦術がいきなり変わってしまうリスク、ケガで試合に出れなくなってしまうリスクなど自分ではコントロールできない多くのリスクの中で、キャリアを送っているということなどからも容易に想像することができると思います。
しかし、「子供たちの憧れの職業であるサッカー選手になれた」はずなのに、実は社会的信用力がなく、家を購入しようとしても、住宅ローンすら組めないのはあまりにも悲しい現実ではないでしょうか?
Jリーガーを本当の意味で、社会的にも夢の仕事にしないといけない、これが今回の記事のテーマです。
「来年の保証がない」ゴールドマン・サックス証券と何が違うのか?
昨年、音声SNSのクラブハウスが一世を風靡したころ、同じように「Jリーガーの社会的な地位」について考えてみたことがあります。
先ほど申し上げたように、「来年の保証がない」ということが社会的信用力のネックになっているのであれば、僕が新卒で入社したゴールドマン・サックス証券にも似たようなことが言えるのではないか? 外資系金融は特に離職率も高く、それこそ「来年の保証がない」世界なのではないか?
ゴールドマン・サックス証券に所属し、銀行のローン審査に受からないということはほとんどあり得ないと思います。
同じような境遇なはずなのに、なぜこの差が生まれるのか。
シンプルに疑問に思ったので、お世話になった諸先輩方に声をかけ、クラブハウスで「ゴールドマン・サックス卒業生のセカンドキャリア」をテーマとした場をセッティングしてみました。
「Jリーガーのセカンドキャリア」について近年問題視されているのに対して、「ゴールドマン・サックス卒業生のセカンドキャリア」が話題になることはほとんどありません。それはセカンドキャリアの舞台で活躍している人の数を見ても明らかです。
もちろんこの会社を転職し、競合他社に移る人もいますが、自分でビジネスを興したり、まったく別業界で活躍する人もいます。この状況は「これまでサッカーしかやってこなかった」とセカンドキャリアで苦戦するJリーガーとほとんど境遇は変わりません。
重要なのは「自分自身でキャリアを作る力」
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Profile
三上 昴
筑波大学蹴球部、筑波大学院システム情報工学研究科にてMBAを取得後、ゴールドマンサックス証券株式会社債券営業部に入社。同社を退職後、2018年よりJ2初年度となったFC琉球に参画し、2019年4月にはJリーグ史上最年少(当時31歳)で代表取締役社長を務めた。2020年には同クラブを退社後、筑波大学蹴球部時代の仲間と共にHuman Development Academyを創業。