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海外移籍する日本人選手の移籍金はなぜ高騰しないのか

2022.01.07

このオフシーズンも多くの日本人選手の国外移籍が実現しているが、そのたびに話題となるのが移籍金額の少なさだ。残留すれば何年にもわたってチームを背負っていくはずだった期待の若手を少ない金額で送り出すことになった際には、サポーターの怒りの矛先がクラブに向けられるケースも散見される。

海外では10代や20代前半の若手に数十億円が投じられることが珍しくない中にあって、なぜ日本人選手の移籍で生じる金額は良くて数億円程度なのか。理由を知るためには、Jリーグの契約・移籍に関する規定や制度設計、Jクラブの経営体質、強化部人材に求められるスキル、経験値など日本サッカー界を形作る様々な構造面にも目を向ける必要があるという。

その背景事情について、かつては楽天にて、現在はシティ・フットボール・ジャパンの代表としてJおよび欧州クラブのフロント事情や世界のスポーツビジネスシーンの最前線を知る利重孝夫が概説する。

 以前footballistaにて公開した『「0円移籍」はなぜ危険なのか。欧州サッカー移籍ビジネスの論理』という記事に大きな反響があった。日本から欧州に移籍する際、買い手から見て仕入れコストゼロというのはお得というより失敗してもマイナスがないと認識され、プレー機会の逸失に繋がるリスクありと指摘したものだ。現状はコロナ禍の影響で仕入れのための元手を工面するのが厳しいクラブが多く、移籍金を伴う取引自体が冷え込んでいるという事情はあるにせよ、このロジック自体は今も変わっていない。

 ただ、移籍をめぐる評価には受け手クラブ、選手、出し手クラブにとってそれぞれの観点があるはずだが、上記の「0円移籍が危険」というのは選手にとっての話。そこで今回は、選手の出し手(売り手)クラブからの視点を中心に、海外移籍における移籍金について考えをめぐらせてみたい。

立ちはだかる「契約」の壁

 そもそも移籍金はどうやって決まるのか?金額にはどのようなロジックが反映されるべきなのか? 売り手側から見て契約の中途解約時に生じる「契約解除金」をベースに残り契約年数や年俸、選手の「市場価値」を勘案して交渉の上で決定される他、そのクラブが選手にとって初めてプロ契約したクラブであった場合には在籍年数などに応じて「トレーニング・コンペンセーション(TC)」が支払われることになる。

 日本人選手の欧州移籍時の移籍金に関しては、確かに(海外の買い手から見た)「選手の市場価値」からすると安い事例が多いと思う。しかし、そのギャップは売り手側(つまり日本のクラブ)の交渉力が低いから生じているわけではなく、ベースとなる「契約解除金」の設定上、市場価値に見合う金額とはならないからだと理解している。

 Jクラブの場合、個別の若手選手の獲得・育成のための仕入れコストは些少と言える。「いやいや、新人選手獲得時にはTCが発生するし育成にはコストが発生しているでしょう?」との反論はあると思う。確かにTCやアカデミー運営全体の費用は発生しているが、高校や大学から加入する選手のTCに関してはJクラブ間での移籍に比べれば少額となっているし、アカデミーについてはJリーグのクラブライセンス要件に定められているようにJクラブにとって必要な運営コストであり、選手を育成し売却するための追加的な事業コストとは言えない。

 加えて、Jリーグには他クラブのアカデミー選手に対して先に声をかけないという紳士協定(あくまで法的な契約ではない!)が存在していたり、新人選手に対する共通の契約制度があって年俸上限が決められていたり、新加入の際にも例えばNPBのプロ野球選手とは違って契約金なども発生しないことになっている。したがって、新人獲得時のコストはそれほど高くなり得ない。

 また、スタート時のC契約(年俸460万円)以降、同一クラブに留まる限り、その後の年俸の上がり方も年功序列的な要素も含んだマイルドなカーブを描くことが多く、契約年数もルール上定められている最長期間(5年)が採用されることは稀。つまり、「契約解除金」のロジックからも移籍金が高額になる要素は見当たらないのである。

自由市場となっていない現状

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Jリーグビジネス移籍

Profile

利重 孝夫

(株)ソル・メディア代表取締役社長。東京大学ア式蹴球部総監督。2000年代に楽天(株)にて東京ヴェルディメインスポンサー、ヴィッセル神戸事業譲受、FCバルセロナとの提携案件をリード。2014年から約10年間、シティ・フットボール・ジャパン(株)代表も務めた。

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