圧倒的な強さを誇るアヤックスをかわし、前半戦王者=「クリスマス・チャンピオン」に輝いたロジャー・シュミット率いるPSV。その立役者の1人になっているのが、11月、12月の2カ月に目覚ましい活躍を見せた堂安律だ。かつて「ゲーゲンプレッシング戦術の極北」と言われたロジャー・シュミットサッカーの進化、その中で堂安が果たしている役割を現地取材を続ける中田徹氏に解説してもらおう。
12月19日、RKCとのアウェイゲームの21分だった。PSVのFW堂安律は、左からのクロスに対して勢いよく助走をつけてジャンプして渾身のヘディングシュートを打った。この時、RKCの左SBブットナ−の頭に顔面をぶつけてしまって負傷退場した。
堂安が負った眼窩骨折は、調子の良さが災いしたのではないだろうか。RKC戦の堂安は5分、味方からのサイドチェンジのパスをピタリと止めると間髪入れずに正確なアーリークロスを蹴り込んで、ファーサイドに走り込んだ味方にビッグチャンスを創出していた。技術的にも精神的にも自信を持ち、視野も広く、ためらいなくアイディアをプレーとして表現することができていた。クロスの競り合いでも負ける気がしなかったのだろう。思い描いたようにジャンプし、思い切ってヘディングシュートを放ったら、敵のDFと激突していた。
こうして翌節の対ゴー・アヘッド・イーグルス戦(2-0でPSVの勝利)を待つことなく2021年最後の試合を終えた堂安だったが、11月、12月の活躍は見事なもの。チームを首位に引き上げる原動力となった。それを裏付けるのが地元紙『アイントホーフェン・ダッハブラット』の前半戦の通信簿だ。堂安はMFサンガレ、FWガクポ、フェルテッセンとともにチーム最高の『☆☆☆☆』をもらったのだ。
「堂安はPSVで印象深い成長を遂げた。より気持ちはみなぎっている。ウインターブレーク明けに待ち受けるマドゥエケとのポジション争いは興味津々だ」(『アイントホーフェン・ダッハブラット』紙の寸評より)
構想外から一転…シュミットを翻意させたドイツでの活躍
PSVでの堂安は長い暗闇の中にいた。最初の年の19-20シーズンはファン・ボメル監督から重宝されたが、後継者のファーバー監督はフローニンゲン時代の恩師だったにもかかわらず、堂安の出場機会を著しく減らした。コロナ禍によるシーズン中断最後のゲームとなった20年3月8日のフローニンゲン戦で8試合ぶりに先発した堂安は「監督からの信頼を感じられない」と率直に語っていた。
翌20-21シーズンは、ゲーゲンプレッシングの使い手として知られるロジャー・シュミットが新監督に就任したが、堂安は構想外となりビーレフェルトにレンタル移籍。主力として活躍してチームの1部残留に貢献した。自信を回復した堂安は、PSVに戻るよりブンデスリーガの舞台でプレーし続けたいと願うようになった。しかし、550万ユーロとも650万ユーロとも言われる移籍金がネックとなって希望は叶わなかった。
一方、シュミット監督はビーレフェルトでの堂安の活躍に目を見張っていた。昨年の7月上旬、シュミット監督はオランダのメディアに対して、こう語っている。……
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中田 徹
メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。