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青森山田は今年“も”強かった。「プレミア以後」群を抜く安定感の正体

2021.12.18

12月28日に開幕する高校サッカー選手権に、優勝候補本命という例年通りの前評判で臨む青森山田高校。史上最多となる25年連続の出場、直近では3大会連続の決勝進出とライバルを寄せつけない戦いぶりは、Jユースとも相まみえるプレミアリーグでも揺るがず、12日には2大会連続で東日本を制している。近年カップ戦、リーグ戦を問わず発揮されている安定感の正体を、高校年代を継続取材する川端暁彦氏に紐解いてもらった。

 まだ前半も終わってないというのにスコアボードには「4-0」の数字が刻まれていた。Jユースの強豪相手にこの差をつけることは特異な現象なのだが、日常的に見られる光景なのでもはや畏怖や驚きを感じなくなってしまった。

 結局、試合はその4点のリードを守った青森山田が完勝。12月12日、長いリーグ戦を制し、10大会中3度目となる東日本チャンピオンに輝いた。今年“も”強かった。

プレミアリーグEAST優勝が決定した第12節延期分の横浜FCユース戦、青森山田の3点目を挙げて笑顔でピッチを駆ける⑰渡邊星来

「残留するのがやっとだった」プレミアリーグ黎明期

 日本の高校年代のリーグ戦は、総称して「高円宮杯JFA U-18サッカーリーグ」と呼ばれている。上から全国を東西に分けたプレミアリーグ、次に関東や関西、九州といった9地域に分かれるプリンスリーグ、さらにその下には都府県リーグや道ブロックリーグなどが連なり、高校のサッカー部もクラブチームも参加可能だ。都府県以下のリーグの構造はそれぞれだが、チーム数の多い県はかなり重層的なモノとなる。

 プレミアリーグは2010年に創設されて今年で11年目を迎える。より高いレベルで選手たちが切磋琢磨して競り合う環境を作ることを目指し、9地域のプリンスリーグの上に位置する“プレミアムなリーグ”として開始された。東西2ブロックがホーム&アウェイ方式で対戦し、東西優勝チーム同士がファイナルを戦って日本一を決定するという流れである。(編注:新型コロナウイルスの影響で全試合消化が不可能と判断され、2021年のファイナルは中止が決定)

 青森山田はその初年度から参加しているチームだが、その初年度と2年目を経験しているOBの日本代表DF室屋成が当時を回想して「僕たちの頃は残留がやっとだった。今とはまるで違う」と言うように、実力的には中の下といったところだった。黒田剛監督も「なんとか残留できればいいという感覚でしかなかった」と振り返るが、これは謙遜でも何でもなく、むしろ「青森山田よく残留したね」なんて言われ方をしていたものだった。当時は全国高校サッカー選手権においても3回戦敗退といったことが多く、優勝候補筆頭に挙げられるようなチームでもなかった。

2012年の卒業後、明治大学在学中にFC東京でプロ入りを果たした室屋成(現ハノーファー)。2022シーズンのJクラブ加入が内定している現チームの松木玖生、宇野禅斗を含め、青森山田は56人ものJリーガーを輩出している

 何が彼らを変えたのかと言えば、まさにプレミアリーグが変えたと言っても過言ではない。それまでプリンスリーグ東北で常に優勝してきたチームにとって、当初プレミアリーグは重荷だった。負けが続く上に、苦しいゲーム内容を強いられる展開は、その後の年末の高校サッカー選手権にも繋がらないと思われていた。実際、それでリーグ戦に力を入れるのを止めた高校もあり、黒田監督も当時「リーグ戦で勝つためのサッカーをしていると、選手権で求められることと合わなくなる」と発言していた。あえて平たく言ってしまうと、リーグ戦でJユースにボールを支配されながら粘るサッカーを極めても、選手権では力関係からボールを持たされる。このため、違うサッカーを強いられるという感覚があったことである。

「未来のサッカー」を生んだ黒田監督の発想転換

 ただ、そうした難しい問いかけ自体が発想の転換を生み、時代にもマッチしていくこととなる。要するに、一つのスタイル、一つの戦い方にこだわるのではなく、「両方できるチームになればいい。対戦相手や状況次第で変化できるチームになる」(黒田監督)という考え方への変化である。……

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育成青森山田高校高円宮杯プレミアリーグ

Profile

川端 暁彦

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣『エル・ゴラッソ』を始め各種媒体にライターとして寄稿する他、フリーの編集者としての活動も行っている。著書に『Jの新人』(東邦出版)。

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