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曺貴裁監督が明かす「京都スタイル」。ボールを、下げるな!ゴールへ向かう「4-3-3プラス1」

2021.12.16

川﨑颯太、福岡慎平、麻田将吾、若原智哉といったアカデミー出身の若手と、ピーター・ウタカ、ヨルディ・バイスのような百戦錬磨の外国籍選手が見事に融合。躍動感あふれるサッカーで、京都は12年ぶりのJ1復帰を果たした。そのチームを率いるのは曺貴裁監督。1年半ぶりに帰ってきたJリーグの舞台で、あらためてその指導力を遺憾なく発揮している。大学生と向き合った1年間。地元のクラブで指揮を執る想い。あらためて自分がやるべきこと。

2021年7月に発売された『フットボリスタJ』から独占インタビューを特別公開! (インタビューは6月30日に実施)

流通経済大で過ごした“金の時間”

「中野監督に人として負けた」

―― まずは、今シーズンのチームをどのようにご覧になっていますか?

 「例えば『ここまで何点ですか?』と聞かれても、わからないんですよね。勝つ、負けるよりも、どんな反応が起きるのだろうということが、自分にとっての興味の上位なので、何かを発見して進んでいって、うまく行かないことをみんなで相談して、それがうまく行くようにみんなでエネルギーを出し合っていくことが、毎日楽しく感じるんです。なので、次の試合のメンバーを選ぶことも追い込まれた感じはなくて、『この選手を使えばこういうことが起きるから、どっちがいいかな』と純粋に忖度なくやっている感じなので、京都サンガF.C.というクラブや京都という土地が僕をそうさせてくれたと思っていますし、言葉にできないぐらい、自分にとって大事なものというか。例えば親が自分の子供に対して、『オマエの育ち方は、オレの思ってきたなかでの80点だ』なんて言わないじゃないですか(笑)。たぶんそんな感覚かもしれないです」

―― それは京都の監督を引き受けた時に想定していた流れですか?

 「流通経済大学での1年が僕にとっては“金の時間”というか、選手も誰も知らない、大学サッカーにも触れていない人間が、いきなりJ1のチームから行った時に、僕がトライしたことの日々の積み重ねが、サッカーに対しての向き合い方を考えながら指導した経験が、すごく活きているんです。だから、中野(雄二)監督をはじめ、スタッフの方や選手には心の底から感謝しています。監督や選手たちに僕が向き合ったことがすべてのベースになっていて、湘南ベルマーレでトライしてきたことも含めて、京都でこういうやり方にトライしていこうと思えたのは、あの時間がすごく大きかったです」

―― 具体的に流通経済大学で、曺監督がトライしたことはどういうものですか?

 「2019年の12月に中野監督から『うちの大学に来て指導してほしい』という話をもらった時に、自分は『まだ指導の現場に立つべきではない』と考えていました。ただ、そこから逃げて、何も自分で解決できないままだと、やっぱり次のものに向き合えないなと思ったので、やるからには一生懸命やろうと決意して、2月くらいから大学に行かせてもらう前に1人で2カ月ぐらいヨーロッパに行ったんです。イタリア、スペイン、ベルギー、オランダと回って、20試合近くをスタンドの上から1人で見ました。それで感じたことをずっとメモしていた時に、『もう今はどのチームにもスタイルはないな』と思ったんです。『スタイルを色分けしてチームを語る時代じゃないな』と。

 要は“湘南スタイル”というみんなが付けてくれた言葉が世の中に広まって、選手がそれで発奮してくれた部分もありましたけど、今はスタイルを作れば勝てる時代ではなくて、逆に何かが欠けていると負ける時代、何かがないと勝てない時代になっているのかなと。だから、ボールを回すだけでも、走るだけでも、クロスを入れるだけでも、前からプレスに行くだけでも、引くだけでもダメな時代になっているなと。湘南の時の3バックのやり方は、時間が経つごとにだんだん相手にボールを持たれて、“後ろ体重”になってしまう現象を、なかなか僕自身が解決できずに次に進めなかったという自戒の念があって、もちろんそれはそれでトライとしては正しかったと思うんですけど、次の段階に行くためにはやっぱり90分通して、最初から最後まで相手に対して上回る部分を出し続けないといけない、見せ続けないといけないと。実は中野監督とコーチが『ここは曺さんの実験の場でもいいじゃないですか』って言ってくれたことがあったんです」

―― いや、それは中野さんもすごい度量ですね。

 「中野監督は本当にすごい方で、『僕は流大のためじゃなくて、曺さんのためにやっているつもりですから』と言ってくれたんです。『またちゃんとJリーグに戻って、監督としてやれるように、やりたいようにやってください』と。僕はあの人に『人として負けたな』と思いました。なかなか言えない言葉じゃないですか。でも、本当にうれしかったのと同時に、不安がありました。『選手がどんな反応を見せるんだろう?』と。ただ一方、ヨーロッパでそうしたものを見てきたから、試したい気持ちはあったんです。

 それで、相手のゴールキックにフタをする守備の練習をしました。『今までオマエらは人に依存してやっていたけど、こういうふうにやってみたら』とやり方を提示したわけです。それは『自分たちの距離感を作れ』という話で、ゾーンディフェンスの考え方と同じですが、少しそこにアレンジした言い方をして。その後に明治大学と練習試合をしたのですが、2-0で勝ったんです。とにかく戦い方がハマった。それで、『あ、これって自分たちがボールを持った時、相手がボールを持った時の2つの局面と、切り替えの局面の全部で相手を上回れる気持ちに選手たちをさせたら、“アグレッシブ”という言葉を言わなくても、自然とアグレッシブになるんじゃないか』と思ったんです。だから、それを今もずっと試行錯誤しながら続けている感じです。

 選手に何を提示するかというシステム的なことで言うと、秩序は絶対作ります。だけど、そこに“カオス”が生まれないと、もう勝てないと思ったんです。『ここに相手がきた時はこうして、こう埋めて、クロスはこう守れ』と言うだけだと、言葉って体重を後ろに下げるんです。だから、どうしてもカウンターの要素が強いチームになってしまう。でも、流大はカウンターもありましたけど、それが強いチームではなくて。今の京都もカウンターは持っているけど、それが強い印象はないはずです。ボール保持と、ボール非保持の時の、両方に刀があるというか。僕は自分もそうありたい。そのやり方しかできない、その言葉しか使わない自分じゃなくて、もう一方の刀をちゃんと持っていないと、今の時代のサッカーで選手たちを伸ばせないと思っているので、本当に“実験”させてもらいました。指導者は経験を積んでいくと、どこか失点しないようにするわけです。でも、僕はいったんそれを下ろしたから、今は新人監督みたいな気持ちです。ベンチの前で指示する回数も極端に減りました。もちろん熱は伝えているんですけど、『見ていた方がいいな』と思う瞬間は前より多くなりましたね」

京都が導入するのは「[4-3-3]プラス1」。軸は川﨑颯太の「ホールディングセブン」

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Jリーグ川﨑颯太曺貴裁

Profile

土屋 雅史

1979年8月18日生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社。学生時代からヘビーな視聴者だった「Foot!」ではAD、ディレクター、プロデューサーとすべてを経験。2021年からフリーランスとして活動中。昔は現場、TV中継含めて年間1000試合ぐらい見ていたこともありました。サッカー大好き!

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