2017:ジェフユナイテッド千葉×フアン・エスナイデル
2017成績 J2リーグ:6位 J1昇格プレーオフ:ベスト4 天皇杯:ベスト32 ちばぎんカップ:準優勝
12月10日発売の『フットボリスタ第88号』では、創刊以来15年の戦術進化を大特集。W杯周期の4年でトレンドを区切り、2008-09シーズンのバルセロナから2021シーズンの川崎フロンターレまで各時代の革新チームをピックアップしている完全保存版だ。その番外編として、 ジェフ千葉サポーターを 「ハイプレス・ハイライン」戦術で震撼させたエスナイデル監督の就任初年度、2017シーズンの衝撃を当事者であるtkq氏に振り返ってもらった。
2016年オフ、それはジェフユナイテッド千葉のファンにとって、冬の時代でした。
2009年のJ2降格後、なかなか昇格を勝ち取れず、2014年途中から切り札的な意味で招へいした地元千葉県出身の関塚隆監督の下でも大爆死を遂げ、2016年には解任となりました。J1への昇格を至上命題としながら早7年が過ぎ、年を追うごとに成績もだんだんと下降、選手の面子も徐々にJ2ナイズされていく中で、我われジェフユナイテッド千葉のファンたちは、薄暗い場末の居酒屋で暗澹たる気持ちで腐った肉を煮た何かをつまみに目が潰れそうな焼酎をすすり、「昇格…昇格…昇格…」と無限に呟いていました。そう、暗黒時代だったのです。
そこに唐突に現れたのがエスナイデル監督でした。
海外サッカーを見ていたオールドファンなら、え?アトレティコ・マドリーにいた、あのエスナイデル?と驚いた人もいるかもしれませんが、ほとんどの人にとっては高橋悠太GMが謎のアルゼンチン人を連れてきたという印象でした。率直に言って、当時は気持ちがアガりましたね。
最近は増えましたが、スペインで指導歴のある監督なんて、その頃にはほとんど例がありませんでした。スペインといえば華麗なパスサッカー(のちに誤解だとわかります)なので、堅守速攻路線で活路を見出せなくなりつつあったジェフにとっては新しい指針になるのではないか、そう思えたのです。
ああ、憧れのパスサッカー……スペインの香り……華麗に相手をいなすマタドールのようなスペクタクルがフクアリで見れる……。思えば、この時、スペインで2回連続解任になっているという事実からは目を背けていたような気がします。そう、人は見たいものだけを見るのです。
「冗談みたいな高さのDFラインだな」
シーズンが始まって蓋を開けてみれば、そこに展開されていたのは、マタドールどころか全裸で奇声を上げながら斧を振り回すサッカーでした。
まず、衝撃的だったのがDFラインの高さ。バックラインをハーフウェイライン近くまで押し上げるノーガードスタイルです。最前線からプレスをかけるのに合わせて最終ラインも大幅に押し上げ、相手を窒息死させようというおそろしくアグレッシブな目論み。当時から海外ではリバプールを始めとして結構「ハイプレス・ハイライン」のチームはあったのですが、Jリーグではほとんど見たことがない高さでした。開幕当初、守備の要であるCB近藤直也が見せた困惑の表情を今でも覚えています。
私もグレタ・トゥーンベリさんの環境への意識並みの高さのDFラインとその裏にある広大なスペースに戦慄し、素に戻って呟いたのが当時のこのツイートです。
さあ、これで相手を圧殺して自陣に釘づけ、無限ショートカウンターでサンドバッグや!昇格待ったなし!というのが理想だったんですが、残念ながらそうはなりませんでした。
なぜかというと、理想と現実は常に違うからです。まず、プレスの強度。リバプール並みの選手がいればボッコボコにできたのでしょうけど、いかんせんそんな選手がいるはずもありません(というか、そもそもプレス強度を基準に選手を集めてない)。
また、プレス戦術の仕込み具合もイマイチで、 エスナイデル監督の指笛でプレスに行くタイミングを判断している説も囁かれていたくらいです。そんな指示の送り方は初めて聞きましたし、本当ならサッカー界を揺るがす大革命でしたが、難点は相手にもプレスに行くタイミングがわかってしまうことですね。テレパシーで伝えるべきでした。
GK佐藤をバグらせたハイラインの罪と功
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Profile
tkq
世界ロングボール学会(WLBS)日本支部正会員。Jリーグの始まりとともに自我が芽生え、カントナキックとファウラーの薬物吸引パフォーマンスに魅了されて海外サッカーも見るように。たぶん前世でものすごく悪いことをしたので(魔女を10人くらい教会に引き渡したとか)、応援しているチームがJ2に約10年間幽閉されています。一晩パブで飲み明かした酔っ払いが明け方にレシートの裏に書いた詩のような文章を生み出そうと日々努力中です。【note】https://note.mu/tkq