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【大黒将志インタビュー】「時代が変わっても、サッカーの本質は変わらない」

2021.12.13

2021年12月6日に開催された2021Jリーグアウォーズで「功労選手賞」を大黒将志氏が受賞した。22年のプロ生活で12クラブを渡り歩き、積み重ねたゴールは日本代表戦も含めて209得点。引退後、2021年からは古巣ガンバ大阪のストライカーコーチとして、育成年代の選手たちを指導している。

現役時代に活躍できた要因は何だったのか。そして現在、指導者として大切にしていることとは。Jリーグアウォーズ本番直前の控室、本人に話を聞いた。

移籍を重ねて進化した

――功労選手賞の受賞おめでとうございます。

 「ありがとうございます。今までお世話になったクラブの関係者、サポーター、家族や兄弟、みんなに感謝したいです」

――先日行われた引退セレモニーで「22年間プロサッカー選手をできたのはガンバ大阪のおかげ」と、アカデミー時代に指導を受けた鴨川幸司さんや上野山信行さんの名前を挙げていたのが印象的でした。

 「(アカデミー時代に受けた)すべての指導がプロで役に立ちました。小中学生の頃は上野山さんや鴨川さんから“止める”“蹴る”の基本技術にこだわって指導してもらって、ユースになってからはそれ(基本技術)をベースとして、西村(昭宏)さんにボールがないところでの動き方の重要性を教えてもらって……という感じで。あとは、『ゴール前でもっと遊べ』とか。サッカーの楽しさを教えてもらいましたね」

―大黒さんのプロキャリアを振り返った時、プロ3年目にFWでのプレーを西野朗監督(ガンバ大阪)に直訴したことがターニングポイントの1つだと思うのですが、当時から現役通算209得点も取れる自信はあったのでしょうか?

 「いや、なかったです(笑)。FW一本で勝負しようと思ったのは、当時のチーム的に中盤のポジション争いが厳しかったこともありますし、2トップを採用しているチームも多かったから(出場の)チャンスが増えるだろうなと思って」

――大黒さんの凄みはキャリアの後半でも得点を取り続けていることです。2014年、京都サンガでJ2得点王(26ゴール)を記録した時は34歳。年齢的な衰えは感じなかったのでしょうか?

 「ほぼ感じなかったですね。持久力ではなく、瞬発力を落とさないトレーニングをしていた効果もあったと思います。そこがキープできれば全然(問題なかった)。今でも(指導者として在籍する)ガンバユースの選手たちと一緒に走っていますけど、真面目に1カ月くらいトレーニングすれば現役時代のフィジカルに戻せるんちゃうかなって(笑)。(衰えがないことは)指導者のライセンスを取る時にも役に立つんですよ。学生を指導すると、僕の動きにビックリしてくれたりして(笑)」

30代以降のキャリアでも年齢的な衰えは感じなかったと大黒氏は語る

――もう1つ大黒さんのキャリアで特徴的なのは、国外も含めて計12クラブに在籍していることです。移籍するたびに、新しい環境に適応する難しさはありませんでしたか?

 「いや、移籍し過ぎて、どのクラブに在籍しても、すぐに選手の特徴や性格をつかめるようになっていて。外国でも言葉がわからないからこそ、逆に人間性を理解しやすい部分もありましたし。チームメイトの能力やプレースタイルを理解して、ピッチ内での動き方を変えてきたので、移籍を重ねて(動き方の)バリエーション や質が進化した部分もあると思いますね」

――「選手の特徴や性格をつかむ」に通じる能力だと思いますが、大黒さんのメディアでの発言を聞くと、いつも記憶力にも驚かされます。現役時代から考えてプレーしていたことの証拠でもあると思います。

 「記憶力は学生時代から良かったですね。社会のテストはいつも90点台でしたし。さっきフィジカルの話をしましたけど、サッカーは結局、“頭”だと思うんですよ。偶然で1、2点は取れても、考えてプレーしないと継続してゴールを奪うのは無理。『DFの特徴』『GKの癖』とかを意識してプレーする大切さは、今ユースの選手たちに教えていることでもあります」

ガンバが普通のクラブになってしまう

――今年からガンバ大阪アカデミーのコーチに就任されました。鴨川幸司さんや上野山信行さんは既にクラブから離れられた(ともに2019年12月に退任)中で、お2人からの教えを指導者として引き継いでいくという意識は持っていますか?

 「鴨川さん、上野山さん、西村さんも、ああいう指導者がいたからこそ、ガンバアカデミーから本当にうまい選手が出てきていたと思うんですよ。伝統として、技術に徹底的にこだわる姿勢。“止める”“蹴る”の基本技術。そして、状況判断。そこは僕も大事にしたい。それがなくなると、ガンバが普通のクラブになってしまうと思っているんで。『ガンバユース=うまい選手』だったはずなのに、最近はその印象が少し薄れてきていることをすごく心配していて。時代が変わっても、サッカーの本質は変わらないですよ。結局は1対1に勝つこと。そのために“止める”“蹴る”にこだわる必要があること。指導者の責任として、選手にそこは細かく伝え続けていこうと思っています」

―伝統を引き継ぐという意味でも、クラブOBが指導者として戻ってくる効果は大きそうですね。

 「森下(仁志)さん、明神(智和)さんら、プロを経験している人が子供たちを教えるのはめちゃくちゃ良いことだと思います。プロの厳しさを含め、どういう世界なのかを伝えていくのは重要。その中で僕の役割としては、“ガンバらしさ”をなくさないようにしていくこと。伝統的に同じ実力の選手がいたら学年が下の選手が出場するとか、うまい選手を育てるために思ったことはクラブに言い続けようと思います」

―やはり育成年代において“飛び級”の効果は感じますか? 来シーズン、ユースからトップに昇格するMF中村仁郎選手、FW坂本一彩選手も昨シーズンまでガンバ大阪U-23でプロの試合を経験しています。

 「U-23の試合は関与していないので、詳しくはわからないですけど、良い経験になっているはずです。僕は高1の時からサテライトリーグでプロの選手と毎週試合をさせてもらっていたんですけど、あの経験は確実にプラスでしたね。(プロの試合を経験しているから)ユースの選手と試合をやる時は余裕を持ってプレーできたし、実際、かなり勝っていましたしね」

―中村選手、坂本選手は、大黒さんにとって指導者として初めてプロに送り出す“教え子”となるわけですが、両選手の魅力を教えてもらえますか? ストライカーコーチという立場上、特に坂本選手には指導する機会も多かったと思います。

 「(坂本選手は)ドリブルしている時の一瞬の加速力がすごくある選手。ボール扱いもうまいですよ。オフ・ザ・ボールの部分はかなり教えましたけど、1年間(の指導)ではちょっと不安なんですよね。タイミングの外し方とか、動き方はもっといろいろ教えたいことがあったので。けど、近くにはいるので、気が付いたことは伝えていこうと思います。十分、プロとしてやれるポテンシャルはあります。ただ、プロは常に順調にいくほど甘い世界ではない。プロとユースではDFのレベルも違う。試合に出場できない時に何をするのかも含め、いろいろ経験を積んで、長いキャリアを歩んでくれればうれしいですけどね」

―中村選手についてはいかがでしょうか?

 「仁郎はボールを持ってからの選手ですけど、ボールをもらう前の動きが良ければ、より怖い選手になれる。オフ・ザ・ボールの動きを練習後に個別で指導したり、FWのシュート練習に入れたりして、最近の(高円宮杯 JFA U-18サッカー)プレミアリーグを見ていると、成果が出つつあるとは思いますね」

―最後に今後のキャリアについても聞かせてください。将来は監督を目指すことを公言されています。

 「実は数日前にA級(ライセンス)の合格をもらいました。今はユースの指導者として育成を最優先に考えていますけど、指導するカテゴリーが違えば、求められるものは違ってくる。プロの監督になった時は全力で勝ちにいきます。ただ、オファーをいただかないと就けない仕事なので、まずは監督に選ばれるように自分の色を出して、頑張っていこうと思います」

Photos:(C)Jリーグ, (C)DAZN

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Jリーグアウォーズガンバ大阪大黒将志育成

Profile

玉利 剛一

1984年生まれ、大阪府出身。関西学院大学卒業後、スカパーJSAT株式会社入社。コンテンツプロモーションやJリーグオンデマンドアプリの開発・運用等を担当。その後、筑波大学大学院でスポーツ社会学領域の修士号を取得。2019年よりフットボリスタ編集部所属。ビジネス関連のテーマを中心に取材・執筆を行っている。サポーター目線をコンセプトとしたブログ「ロスタイムは7分です。」も運営。ツイッターID:@7additinaltime

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