サイバーエージェント、DeNA、メルカリ、そしてミクシィ……。IT企業が首都圏のクラブを買収する意図とは何なのか、そしてそれがJリーグにどういった変化を起こすのか。ゴールドマン・サックス出身でJリーグ史上最年少の31歳でFC琉球の社長に就任、現在はそこでの経験をもとにクラブ経営の外部コンサルを行っている三上昴氏が解説する。
町田のサイバーエージェント、相模原のDeNA、鹿島のメルカリに続いて、先日ミクシィがFC東京の経営権を取得したことが発表されました。ここからどんな変化がJリーグ界に起きるのでしょうか。僕なりの視点で考えてみたいと思います。
成長市場なのに縮小傾向。だからこそ投資する
ポイントとなる視点は2つあると考えています。1つ目の視点は「スポーツビジネスへの参入」、2つ目の視点は「本業ビジネスへの好循環」というものです。少しわかりにくいので、丁寧に説明してみようと思います。
まず1つ目の「スポーツビジネスへの参入」について考えてみます。
そもそもスポーツ庁は、スポーツ市場の規模拡大に対して非常に前向きな見解を持っていることを皆さまご存知でしょうか。
世界的なトレンドとしては、グローバルのGDPの1%を占める非常に大きな産業としてスポーツ産業が認められている一方で、日本国内のスポーツ市場は、グローバルの流れに反して、2002年から2012年の10年間は縮小傾向。そのためスポーツ市場は、グローバルでは成長を続ける市場であることから、国内においてもその拡大が期待されるという見解が市場に対して持たれています。
多くの市場が成熟し、新たなビジネスモデルを展開することの難易度が高まっている経済環境の中で、市場自体に成長が予想されること自体が多くのベンチャー企業と呼ばれる成長企業からすると、魅力を感じる点となっています。
冒頭でポイントとして挙げた「スポーツビジネスへの参入」とは、経営権を取得した新興企業がスポーツ市場で開拓する新規ビジネスとも言えると思います。
特にスポーツ産業×IT技術で実現できることの影響が、我が国のスポーツ市場規模である現在5.5兆円(※2012年時点、直近)から2020年で10.9兆円、2025年で15.2兆円の市場規模への拡大に貢献するとスポーツ庁が後押ししていることも、参入へのポジティブな材料になっていると考えられます。
それでは、具体的にどんなビジネスをこのスポーツ市場で展開するのでしょうか?
私自身、FC琉球で代表取締役社長を務めさせていただいた際に、多くのことを近くで学ばせてもらっていた方がいます。それは2021年FC琉球に資本参加、同年9月からはB1リーグ滋賀レイクスターズに資本参加し、経営に参画することを発表した株式会社マイネットの上原仁さんです。
現在、株式会社マイネットは、FC琉球で、クラブ運営のうちBtoC領域の業務を受託してDX推進を行い、滋賀レイクスターズでは、BtoC領域に加えて、BtoB領域や事業管理など、より広範にクラブ経営のDX化(クラブDX)を進めています。
彼らが中心に考えていることは「熱狂するスポーツコミュニティを形成することで、スポーツ産業全体を大きくすること」だと言えます。
これまでのビジネスの経験上、コンテンツの持つ力以上に周辺に存在するコミュニティの持つ価値を感じ、その形成におけるノウハウを本業で培ってきました。
これまで多くのクラブが歩んできた歴史の中で、切っても切り離せないファン・サポーターのコミュニティとスタジアムで起こる熱狂に対して、どのような仕組み(ビジネスモデル)を作ることによって、クラブに還元できるのかがスポーツビジネスへ参入する彼らの向かうべき問いになっています。
言い換えると、スポーツというコンテンツの周辺にある「コミュニティの熱狂」をどう資金に変えていくのか、とも言えると思います。
この問いかけに対して、ここまで参入しているベンチャー企業がどう答えを出すのかがのカギになってくると思います。一つ言えることは、スポーツ産業の拡大のペースがグローバルに対して日本国内で鈍化していることに将来性を感じ、ベンチャー企業としての資金的・人的リソースを投下していると考えられます。
ある意味では、スポーツクラブを取り巻くコミュニティは特異なコミュニティであると言えます。
例えば、Jリーグを例に考えてみると、10年単位で見てもほとんどルールは変わっていないし、Jリーグ自体の変化も1stシーズン制であるか2ndステージにしたことくらいでしかありません。毎年、優勝や昇格・降格を競い合うなど楽しむ中身自体もほとんど変わっておらず、コンテンツ自体はほぼ変わっていません。
では、なぜ人々はサッカーに熱狂し、心酔するのか。その答えはスタジアムにあります。……
Profile
三上 昴
筑波大学蹴球部、筑波大学院システム情報工学研究科にてMBAを取得後、ゴールドマンサックス証券株式会社債券営業部に入社。同社を退職後、2018年よりJ2初年度となったFC琉球に参画し、2019年4月にはJリーグ史上最年少(当時31歳)で代表取締役社長を務めた。2020年には同クラブを退社後、筑波大学蹴球部時代の仲間と共にHuman Development Academyを創業。