選手起用で読み解く最終予選。 [4-3-3]で大迫パズルは解けたのか
W杯アジア最終予選は11月シリーズで全体の折り返しポイントを越えた。スタートで苦杯を舐めた日本だったが、今回の連勝で2位まで浮上。一時の崖っぷち状態からは脱することができた。その間に[4-3-3]システムの導入や、それに前後して行った序列と起用法の変化を踏まえ、日本代表を追い続ける竹内達也記者が最終予選前半戦を総括しつつ、その先行きを占う。
“圏内”で折り返し。しかし……
4勝2敗の勝ち点12で、W杯出場圏内の2位。
カタールW杯アジア最終予選を折り返した森保ジャパンは、本大会出場という大目標に向かっていく上でまずまずの位置につけた。とりわけ初戦オマーンとのホームゲームで想定外の敗北を喫したことを思えば、よくここまで持ち直したとも言えるだろう。
現在のチーム状況を語ることにかけては指揮官以上の発信者である主将のDF吉田麻也も、直近のオマーンとのゲーム後の取材対応で「状況が好転し始めているのはすごく大きい。1月に3位、4位にいる状況は避けたいと思っていたのでひとつ良かった」とホッとした様子で語っていた。おそらくチーム内にも、こうした安堵感は共有されていると推測できる。
もっとも試合の内訳を見れば、安心できる材料ばかりではない。勝った試合はすべて1点差ゲームで、終盤はやや守勢に回る中での逃げ切りムード。敗れた試合はいずれも0-1の完封負けだった。6試合の合計得点もわずか「5」にとどまっており、攻撃の閉塞感は打開されないままに終わった。
次のシリーズまで2カ月半。そしてW杯本大会までちょうど1年。これから本大会への出場権をつかむため、そして本大会でベスト8という目標を達成するため、どのような方法で目の前の課題を見つめ、乗り越えていくべきなのか。ここまでの6試合を整理しながら考えてみたい。
「中心選手」入れ替えの兆し
チームづくりを考えていく上で、何よりも欠かせないのは選手の編成・起用である。とりわけ代表チームの選手招集は国籍にとらわれる必要のないクラブチームの選手獲得と比較し、スカウティング対象となる選手の絶対数が少ない。必然的に選んだ選手数とベンチ入り人数の差も少ないという特性があるため、「誰を呼ぶか」「誰を使うか」の比重が大きい。また2試合単位のシリーズごとにメンバーを大幅に入れ替えることが許されているという点も、その傾向をさらに強めている。
そうした前提を踏まえ、ここからは編成・起用の面からここまで6試合を振り返っていきたい。
森保一監督が最終予選に向けて招集した選手は合わせて35人。この数字は日本と同じグループの首位を走るサウジアラビアと同じで、出場権を争う3位のオーストラリアより2人多い。また日本はそのうち25人が出場機会を獲得し、先発を任された選手は20人だった。
初めに中心選手から見ていくと、全試合にフル出場したのが吉田、GK権田修一、MF遠藤航の3人だった。全試合先発にまで広げるとDF長友佑都とFW大迫勇也の2選手も加わる。またアーセナルへの移籍手続きのため初戦オマーン戦に合流しなかったDF冨安健洋、出場停止で第3節サウジアラビア戦を欠場したMF伊東純也も当該試合を除いた全試合に先発出場(冨安はフル出場)。さらにコンディションの問題でDF酒井宏樹が3試合、MF南野拓実が2試合を欠場したが、出場できる状態の試合ではそれぞれ全試合で先発を任されている。
大枠の中心選手に該当しそうなのが、ここに挙げた9選手だ。彼ら全員が森保ジャパン発足当初から一貫して選ばれ続け、伊東以外の8選手は19年初旬のアジアカップでもレギュラーを担っていた選手たち。すなわち、約3年間にわたって主力の顔ぶれは変わっていないことになる。またそのうち吉田、酒井、遠藤の3選手はオーバーエイジ選手として東京五輪にも参加。五輪世代の冨安とともに文字どおり「森保ジャパン」で最も重用されてきた選手たちだと言える。
だが、こうした中心選手たちの立場が決して安泰ではなくなってきている。なかでも象徴的なのは長友の起用法だ。サイドバックとしては珍しく直近5試合連続で途中交代が続いており、そのうち4試合では五輪世代のDF中山雄太が代わりに出場。第4戦オーストラリア戦と第6戦オマーン戦では0-0の状況から攻撃のカードとして交代が行われ、中山の投入後に得点が生まれているのも見逃せない。
また長友と左サイドで縦関係を組む南野も途中交代が増えている。サイドハーフやウイングという負荷の大きなポジションの性質上、交代が行われること自体は自然だが、第5戦ベトナム戦と第6戦オマーン戦ともに長友と同時交代。オマーン戦の後半立ち上がりはMF三笘薫の投入に伴って久しぶりのトップ下に配置転換されるなど、南野の個性を活かそうとする試みは依然続いているものの、左サイドの“ユニット”自体に再考が行われているのは間違いなさそうだ。
加えて前体制時代からエースの地位を保ってきた大迫の立場も大きく変化している。むしろ、他の選手よりも変化が明白だ。第1戦オマーン戦から第3戦サウジアラビア戦まではいずれもフル出場だったが、第4戦オーストラリア戦から第6戦オマーン戦までは途中交代。この間、スコットランド・セルティックでゴールを量産中のFW古橋亨梧がストライカーとしての出場機会を急増させている。
果たしてその第1〜3戦と第4〜6戦の間に何があったのか。言うまでもなく、最終予選前半戦の大きな転換点となった[4-3-3]へのシステム変更である。
ポスト大迫問題と[4-3-3]の相関
[4-3-3]へのシステム変更に際しては現状、盤面上での形が変わる3ボランチに大きな注目が集まっている。実際、“元フロンターレ勢”で括られるMF田中碧とMF守田英正の序列が上がり、MF柴崎岳とMF鎌田大地の出番が減少するという目立った変化も起きており、そうした捉え方は自然だろう。上記で述べた中心選手9人から外れた「2人」もここでの序列変化によるもので、編成・起用という観点からは最も争いが活性化しているポジションだと言える。
だが、[4-3-3]の新システムという戦術上の論点に少しだけ話を移すと、これは前線へのテコ入れといった側面も大きいのではないかと考えられる。……
Profile
竹内 達也
元地方紙のゲキサカ記者。大分県豊後高田市出身。主に日本代表、Jリーグ、育成年代の大会を取材しています。関心分野はVARを中心とした競技規則と日向坂46。欧州サッカーではFulham FC推し。かつて書いていた仏教アイドルについての記事を超えられるようなインパクトのある成果を出すべく精進いたします。『2050年W杯 日本代表優勝プラン』編集。Twitter:@thetheteatea