その1本が明暗を分けることもある直接フリーキック。職人技を披露するキッカーに注目が集まりがちだが、対峙するGKはゴールを守り抜くために壁の作り方から自身の立ち方まで、どのように準備しなくてはならないのか。イングランド代表GKニック・ポープの事例をもとに、GK分析家のレネ・ノリッチ氏が解説する。
直接フリーキックで1シーズン平均29.9ゴールが決まっているプレミアリーグ。今季も第11節時点で6点が決まっているが、中には凌げたはずのシュートもある。
その1つは、プレミアリーグ第3節アーセナル対バーンリーでマルティン・ウーデゴーが蹴り込んだ決勝点。左足で放たれたボールは壁の右上を越え、ゴールに吸い込まれるように鋭くカーブ。GKニック・ポープが懸命に伸ばした両手を越えてネットを揺らした。
ウーデゴーのキックが速さ、正確さともに見事だったのは間違いないが、筆者はGKの目線から「防げた失点」だったと考える。最適な壁さえ作れていれば、ゴールを守り切れていたはずだからだ。
レノも引っかかった「リスタート」の罠
GKが壁を作る上で最初に注意しないといけないのは、ファウルやハンドによって直接フリーキックを与える笛が鳴った後に、リスタートまで時間があるかどうか。IFAB(国際サッカー評議会)によって制定されている「サッカー競技規則」では、主審が笛を吹く必要がない場合の1つとして、「ほとんどのフリーキック」でプレーを再開する時が挙げられている。
つまり直接フリーキックを得た攻撃側は、基本的に笛を待たなくていい。自由なタイミングでプレーの再開が可能だが、対する守備側はその瞬間、無防備になってしまうことがある。昨季のプレミアリーグ第29節ウェストハム戦で、アーセナルが喫した2失点目は、お手本のような失敗例だろう。
ペナルティエリアの手前左でチームメイトがファウルを犯した直後、GKベルント・レノはボールから完全に目線を切るどころか、背中まで向けてしまっている。DFも棒立ちしているのを見逃さなかったウェストハムは、素早いリスタートからスルーパスで最終ラインの背後をいとも簡単に取ると、ペナルティエリア深くへ侵入。慌てて寄せてきたレノの脇を抜いて得点を決めている。……
Profile
レネ ノリッチ
1994年生まれ、東京都出身。少年団チームにGKコーチがいたことがきっかけでゴールキーパーをプレーし始める。ゴールキックを敵陣ペナルティエリア内まで蹴り込んでいた経験あり(小6)。2018年頃からゴールキーパーのプレー分析記事をブログやnoteに載せ始める。スタジアムでサッカー観戦する場合、GKのウォーミングアップから見始める。好きな選手はヤン・ゾマー、ニック・ポープ。