内田篤人との解説は「どんな化学反応が起こるか楽しみ」。岩政大樹が日本代表のアウェイ2連戦を展望する
カタールワールドカップに向けて、真価が問われる11月シリーズに臨む日本代表。ベトナム、オマーンと対戦するアウェイ2連戦での注目ポイントについて、元日本代表の岩政大樹氏に話を聞いた。また、『DAZN』で独占配信となる今回は、ベトナム戦中継の“裏チャンネル”を内田篤人氏と担当。かつて鹿島アントラーズで一時代を築いた盟友との試合解説に向けての意気込みについても語ってもらった。
勝負のアウェイ2連戦。岩政氏の注目点は
――さっそくになりますが、11月のアウェイ2連戦についてお話をうかがいます。今回のメンバーをご覧になってどのような印象でしょうか?
「みなさん感じると思いますが、川崎フロンターレ色を一気に強くさせたなというのは感じますね」
――前回のオーストラリア戦のサッカーを継続していくというメッセージのようなものは感じ取れますか?
「あり得ると思いますね。もちろん、旗手(怜央)や三笘(薫)、谷口(彰悟)に関しては個人のパフォーマンスがいいということもあるでしょうから、一概にこれで[4-3-3]をメインにするかはわからないと思います。個人的にはもう少しインサイドハーフを増やして、例えば稲垣(祥)あたりを入れてくるかなと思っていました。2試合しかないですし、鎌田(大地)が入れば[4-2-3-1]へすぐ移行できるので、[4-3-3]と両方をやる準備をしているのだと見ています」
――このメンバーで前回までにあった課題、特にプレッシングの面に関してどのように解決していくと予想されますか?
「おそらくこの2試合に関しては日本がボールを持ったところからスタートする時間が長くなると思うので、ハイプレスの機能性に関してはそんなに気にならないんじゃないでしょうか。
ベトナム戦はおそらく相手がビルドアップする時間はほとんどないでしょう。立ち上がりは多少出てくるかもしれませんが、日本が多くの時間帯でビルドアップしすることで、[5-4-1]もしくは[5-3-2]の相手はそんなにボールを取れないでしょうから、そこからロングカウンターをケアする展開になって、日本にとってはそれほど問題にならないはずです。
オマーン戦も、相手はビルドアップというよりも長いボールも使いながらカウンター気味で入ってくることが多いかと思います。日本は[4-3-3]メインで戦うと思いますので、その中で相手が前向きにボールを確保しないような状況で崩し切れるかどうかがこの2試合のポイントになるかと思います。
これだけ川崎色を強くしたので、そのまま川崎のサッカーをしたとしても難しくないと思います。プレッシングの問題はそんなに起きないと思いますので、アタッキングサードに入ってから相手をどう崩し切るかが重要ですね」
――最後の1/3の攻略というのはアジアの戦いで苦労しがちな部分だと思うのですが、どうすべきだとお考えでしょうか?
「全体の配置だと思います。ゴールを決める選手に、どうボールを届けるのか。逆サイドの絵ですかね。例えば、右で作っていったら、そのまま右でフィニッシュすることはほとんどないです。中央あるいは左サイドで誰かがゴールを決めることが多いですよね。そういったフィニッシュの絵を描くために右サイドの攻撃があり、その右サイドの攻撃を成功させるために左サイドに選手を配置するのであれば、彼らは右の攻撃には関わらないようにすべきです。その全体の絵がそろうように攻撃を仕掛けることが大事だと思います。
ベトナムにしてもオマーンにしても、そんなにハイプレスにはきませんので、自分たちの配置は自分たちで決められると思います。相手にプレスをかけられてポジションをズラすような状況にはならないはずであることを考えると、最終的な局面に誰をどのように送り込むかをバランスで考えたいところですね」
――キーマンを1人挙げるとしたら誰になるでしょうか?
「そうですね……(しばらく考え込む)、たくさんいるんですけどね。1つのポイントは、南野(拓実)をどこに配置するのか。これでいろいろな見方が変わるかなと感じています。あとはどの局面を取り上げるかで変わってきますが、おそらく伊東(純也)はベトナム戦で相当チャンスを迎えると思います。彼が決め切れるかというシーンがいくつか出てくると思いますね。その場面の後に3ボランチだとすれば田中碧や守田(英正)、あるいは旗手がどこのポジションを取って、どうセカンドボールを回収する形を作るかもポイントです。さらにはSBをどこに置くか……と考えていくと全体ということになっちゃいますね(笑)。
いずれにしても、ファーストアタックで崩し切ることを当然最初に考えるんですけど、それできれいに崩し切れることは現代サッカーではそんなにあり得ませんから、その後にどこで拾って2次攻撃、3次攻撃に繋げていくかをデザインしていくことが大事です。そういう意味では、インサイドハーフやSBのポジションの取らせ方もポイントになってくると思います」
――アジアでのアウェイ戦となると、環境面での難しさというのも指摘されるところです。
「どうですかね。今回のメンバーは経験豊富な選手が多いので、それほど問題になることはないと思います。ベトナムはお客さんが入るとノリノリになる感覚はありますが、これまでの試合を見ていてもそういう雰囲気になる時間帯は限られていて、立ち上がりと試合終盤になりふり構わず攻める時間帯しか影響を受けないと思います。まずはその時間帯を冷静に戦うということがポイントにはなりそうですが、それで影響を及ぼされる選手たちではないとは思いますね。
とにかくベトナムにしっかり勝ってオマーンにどう乗り込むか。両チームともオーソドックスではないシステムを採用しているので、個人的には日本代表がそこに対してどう戦うかがポイントになるのではという気がしています」
――一般的な見方としては初戦のベトナム戦は勝って当たり前という雰囲気かもしれませんが、ベトナム戦でどういうサッカーをするのかこそ、しっかりと見た方がいいかもしれませんね。
「そうですね。特にベトナムの場合はブロックを“組んでくれる”ので、攻撃をスタートしてボールを回していても食いついてこないでしょうから自分たちで立ち位置を決められるはずなんです。立ち位置を決めるためには自分たちの準備や共通意識が大事ですし、どれだけボールをロストしたあとのリスク管理を徹底して2次攻撃、3次攻撃に繋げていけるか。そう考えたほうが自分たちの形が作りやすいと思います。時間の問題はありますが、そこはしっかりと基準を提示すれば、代表クラスの選手であればすぐに実践できると思います」
――この2連戦で楽しみにしている部分、見てみたいと思っているのはどんなところでしょうか?
「森保監督はオーストラリア戦で具体的なチェンジをほぼ初めて行いました。それを受けて、この2試合で具体的な提示をどれくらいするのかですよね。これまでは、あまり提示をせずに選手たちにやらせるという方針をチームの大枠の基準としてきたがために、言いづらかった部分、提示しなかった部分があったのかもしれません。ただ、オーストラリア戦で提示してやらせた以上、もうそうは言えないはずです。今回、ベトナムは[5-4-1]でオマーンは[4-3-1-2]というシステムを採用してくることも把握しているわけですから、これに対して攻撃をどう構築していくのかに注目したいと思っています。
ファーストプランで提示がされていなかったとしても、試合中の修正がちゃんとできるのかどうか。ヨーロッパでは監督が戦術をちゃんと提示しているという部分も確かにあるんですが、一方でヨーロッパの選手は自分勝手なヤツが多いので、選手たちが勝手にやっていても、試合がうまく運んでいる時は何も言っていないはずなんですよ、『うまく行っているならそれでいいや』という感じで。でも、うまくいかない時にちゃんとした解決策を提示できるからこそ、監督は信頼されていく。今回のアウェイ2連戦、うまくいかない状況に陥った時に森保さんがどんな変化を加えようとするのかには注目したいですね。
この間の[4-3-3]も、すべてがうまくいったわけではないですが、展開的にリードしていましたし、問題を消しに行く必要がそれほどない中で展開していきました。森保監督のチームは、その展開の時は勝っているんです。難しい展開に陥るケースとしては、最初からうまくいかない状況で先制点を取られ、そこからうまく修正できないまま試合が終わってしまうことが多い。うまくいかなくなった時にどんな策を施してくれるのかに注目していかなければと思っています」
内田篤人との裏解説で何が生まれる?
――ベトナム戦では『DAZN』の裏チャンネルで、かつて鹿島アントラーズでともに戦った内田篤人さんとともに解説を務めることになりました。内田さんと岩政さんとのコンビでいったい何が生まれそうでしょうか?
「ちょっと想像がつかないですね(笑)。篤人がどんなスタンスで来るか次第じゃないでしょうか、場所によってスタンスを変えてしゃべっているなという部分は感じているので。僕はそういったことはあまり気にせずしゃべるタイプですから、そこに篤人がどう絡んでくるかじゃないかな」
――内田さんも岩政さんも言うべきことはしっかりと指摘したり評価をしたりする印象があり、視聴者の方はお2人に期待されているのではないかと思いますがそのあたりはいかがでしょうか?
「2人ともそれほど忖度する相手がいないので、それで素直にしゃべるんじゃないかと思いますけどね(笑)。ただ、これはよく勘違いされるんですが、もしかしたら批判的に聞こえる部分があるかもしれないです。ただ、僕たちがしないといけないのは解説ですから。ピッチ上で選手たち、あるいは監督が何を考えているのかを伝えるのが仕事であり、僕の意見や篤人の意見を口にするのが趣旨ではありません。そこははき違えないでしゃべっているつもりです。その中で、ちょっと今のはどうなんだろうかという場面では素直に話すところが出てくると思いますが……。うーん、篤人かぁ……(笑)。見方が違うところがあると思うので、そのあたりの化学反応を楽しみにしたいと思っています」
――内田さんの引退後の活動についてはどのようにご覧になっていますか?
「篤人は、今のところは自分の進む方向性を決めずに活動しているところでしょうし、枠にとらわれずに進んでいるのは、彼らしくていいんじゃないかと思います。それに彼だからこそ見てくれる層というのがたくさんいらっしゃるのは間違いない。僕がDAZNで彼の番組(『Atsuto Uchida’ Football Time』)に出させてもらうと、これまで同じ内容をしゃべっても全然反響がなかったものが、彼の番組で話すことによって大きな注目を集めることがよくあるんです。彼にしかできない立場をうまく生かして仕事ができていると思いますし、サッカー界のいろんなことを、深いところを知ってもらえている面があると思っています」
――内田さんと岩政さんとの、サッカーの見方の違いについてはどう感じられていますか?
「自分でも認めているように、篤人は感覚的ですよね。そこから踏み込んで言葉にするタイプではないのかなと。そこはSBというポジションの特性もあると思います。自分はCBだったので最後尾からチーム全体に伝える仕事も重要な枠割の一つでしたが、SBの場合は周りに伝えるということが中央に比べると少ないので。そのあたりの違いは今もあるのかなと思います。見てきた景色も感じてきたものも違うので、そのあたりの捉え方も変わると思います」
――今回の解説に向けて、内田さんは「局面局面で岩政さんが何を考えているのかを、聞いて勉強したい」とおっしゃっていました。
「最近、僕と話す時にはそういう姿勢を感じます。篤人に限らず、基本選手は感覚的です。感覚でわかっていることを他の人に伝わるようにしゃべるというのはまた別の仕事ですからね。経験を積んでベテラン選手になってくると、個人について話すのは別に難しくないんです。若い選手に『こういう場面ではこうだよ』とか個別のアドバイスいくらでもします。一方で、指導者や解説者になった時には全体に1つの言葉で伝えることができないといけません。それがまさに『基準』だと思うんです。基準を伝えることで選手たちがプレーをして、基準をベースにプレーをするとどういうことが起こって、起こったか事象を踏まえて細かいことを話すのが監督の仕事です。コーチとは仕事の種類がまったく違うわけです。全体に対して基準として何を伝えるべきなのかは選手をしていてもわからないことなので、別物だなと感じています」
――そんな内田さんとの解説、どんな化学反応が生まれそうでしょうか?
「2人だけなんですよね? なかなか大変そう(笑)。スタンスも考えると、篤人が聞いてきて、僕がそれにずっと答えてる流れになる可能性はありそうかなと」
――確かに、内田さんは「現役時代からずっと教えてもらっていて、先生みたいな存在だった」とおっしゃっていました。
「そうですね(笑)。ただ選手時代はあくまで選手と選手ですから、そうは言ってもという感じですけどね。篤人がドイツから帰ってくることになったあたりから2人の交流がまた始まって、鹿島でケガが続いていた時にたまに連絡をしてくれるようになって、いろんな話をするようになったんです。プライベートで会うことはないですけど、会うたびにいろいろ話しています。指導者としてやってみて、いろいろなことがわかったんじゃないですか。『思ったより岩政さんって凄いんだな』とか『あの頃に言われてたのはそういうことだったんだ』って(笑)」
――なるほど(笑)。では最後に、『DAZN』で今回のアウェイ2連戦を見る視聴者の方にどう楽しんでもらいたいか、メッセージをお願いします。
「内田篤人に興味を持って、そこに変なおじさんが絡んでいるって感じで見てもらえれば十分です(笑)。現役時代もそうでしたし、引退してから解説者としてもですが、僕は篤人のおかげでいろんな方に知ってもらえた部分があるので、今回もそういう場になるんじゃないでしょうか。篤人の話を聞きに集まってくださる方がいらっしゃると思います。そういったみなさんは、比較的ライトな方なのかなとも思いますので、そういった方に抵抗なくサッカーの深めの話を聞いていただけるにしたいですね。わかりやすく掘り下げていくことで、『そんな見方、楽しみ方があるんだ』って気づいてもらえる、そんな裏解説になるといいですね」
――私たちサッカー側の立場からしても、内田さんをきっかけに試合を見てくれた人がサッカーにハマってくれたらすごくうれしいことなので、岩政さんの解説でサッカーに引き込んでもらえることを期待しています。
「これまでライトなファンにはライトな話しか伝わらないという先入観があって、サッカーコンテンツの作り方にも影響していたと思うんです。でも、僕はそこは疑問に思っていて。難解なものを難解に伝えようとするから抵抗があるだけで、選手が実際に考えていることをわかりやすく伝えてあげたら楽しくないはずがないですからね。そういった伝え方に配慮しながら楽しく解説できればと思います」
AFCアジア予選 – Road to Qatar – 第5戦:ベトナム vs 日本
11月11日(木)21:00~
[メインチャンネル]
配信開始20:20、試合開始予定21:00
解説:中村憲剛氏 ゲスト解説:松井大輔氏 実況:下田恒幸氏
[裏チャンネル]
AFCアジア予選 「岩政・内田の裏チャンネル」ベトナム vs 日本
配信開始20:45、試合開始予定21:00
解説:岩政大樹氏、内田篤人氏
【Twitter Live 特別無料配信】豪華解説陣による ベトナム vs 日本 大展望
配信開始20:20
出演者:岩政大樹氏、内田篤人氏、中村憲剛氏、松井大輔氏
Photos: Tomoo Aoyama
Profile
久保 佑一郎
1986年生まれ。愛媛県出身。友人の勧めで手に取った週刊footballistaに魅せられ、2010年南アフリカW杯後にアルバイトとして編集部の門を叩く。エディタースクールやライター歴はなく、footballistaで一から編集のイロハを学んだ。現在はweb副編集長を担当。