「対ポジショナルプレー」守備戦術の浸透を感じた2020-21シーズン。そこで見られた大きなトレンドとは何なのか? この問いに、進化するサッカーの構造を読み解く新刊『シン・フォーメーション論』を上梓した山口遼氏は、トレンドを知るにはむしろ変化しない構造を知ることが重要だという。その心は――?
※『フットボリスタ第85号』掲載記事に一部加筆
「トレンド」のような短期間で変化するものを分析する時には、それらの根底にあり簡単には変化しない「構造」を理解することが逆説的に重要になる。『フットボリスタ第85号』の特集テーマは「守備戦術のトレンド」だが、見かけ上トレンドやパラメーターが変化したとしても、ルールが大きく変わっていない以上その根底にあるサッカーというスポーツの競技特性や性質といった「構造」は大きく変わっていない。まずはサッカーの守備の「構造」を把握した上で、今シーズン見られたいくつかの守備のトレンドについて振り返ってみよう。
サッカーにおける状態変数
サッカーが世界的に人気である理由の一つは「シンプル」なことだろう。より正確に言えばシンプルなゲームメカニクスから驚くほど複雑で多様な事象が起きることが魅力である。特にゲーム空間は驚くほどシンプルで、構成要素は「ゴール」「108m×65mのピッチ」「ボール」「22人の選手たち」だけである。これだけシンプルな要素からなるサッカーが複雑な現象を内包する要因には、
- ・ボールが丸い
- ・自立して意思決定するプレーヤーが22人も存在する
- ・人間の体が複雑な形状をしている
といったものが考えられる。逆に言えば、このあたりの複雑さをデフォルメしたり畳み込んでしまえば、驚くほどシンプルに状態を説明できる。
細かい局面分析に至る前に、大局的にサッカーの現象を分析する上では
- ・ボールの状態を平面上の位置座標で表す(回転や高さを無視)
- ・選手の体をとりあえず点で表す(人体の複雑さを無視)
ことで細々した情報をかなり減らすことができる。となれば、あとは22人のプレーヤーたちの位置情報をどのように記述するかだが、これもピッチの形状が不変であることと、ボールを持った側の11人が攻撃権を占有するというサッカーのルールから以下の非常にシンプルな情報に置き換えることができる。……
Profile
山口 遼
1995年11月23日、茨城県つくば市出身。東京大学工学部化学システム工学科中退。鹿島アントラーズつくばJY、鹿島アントラーズユースを経て、東京大学ア式蹴球部へ。2020年シーズンから同部監督および東京ユナイテッドFCコーチを兼任。2022年シーズンはY.S.C.C.セカンド監督、2023年シーズンからはエリース東京FC監督を務める。twitter: @ryo14afd