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ジョルジーニョはさらに偉大に。マンチーニのイタリア代表で中核を担う男

2021.10.20

新生アズーリの戦術的キーマンと言えるのはジョルジーニョだろう。イタリアにおけるポジショナルプレーの第一人者マウリツィオ・サッリの寵愛を受けてきたレジスタは、30歳にしてさらに成長している。イタリアのWEBマガジン『ウルティモ・ウオモ』が、EURO2020でのジョルジーニョのプレーを徹底分析(2021年7月8日公開)。これを読めば、一見地味なMFの偉大さがわかるはずだ。

フットボリスタ第86号』より掲載

 2019年2月24日、ウェンブリー。マウリツィオ・サッリ率いるチェルシーは、マンチェスター・シティとのリーグカップ決勝に臨んでいた。数日前、同じシティに0-6の惨敗を喫していたサッリにとっては、チェルシー時代を通して最も危機的な状況と言って良かった。一方的にやられた敗戦の記憶を踏まえたサッリは、自身の原則に反することを承知で重心を下げたコンパクトな[4-5-1]の布陣を敷き、どうにかこうにかPK戦にたどり着く。そこで最初にペナルティスポットに進んだのがジョルジーニョだった。いつもと同じゆっくりした助走から、軽くジャンプしてインサイドで蹴り出されたボールは、しかしエデルソンにセーブされてしまう。この後ダビド・ルイスも外して、チェルシーは3-4でタイトルを逃すことになる。

 この時のジョルジーニョは、サポーターから疎まれ始めた監督のスケープゴートのような存在だった。ボールに触るたびにブーイングの口笛を浴び、リオ・ファーディナンドからは「走らないし守らないしアシストもしない。何の役にも立たない選手」と酷評され、サポーターは、どうして3MFのアンカーにカンテを起用しないのかと訝った(彼はサッリだけでなくコンテ監督時代にもこのポジションでプレーしていなかったのだが……)。当時のイングランドでジョルジーニョほど非難の的になった選手は少ない。プレミアリーグのカルチャーとは相容れないプレーヤーだと誰もが考えていた。確かに、イングランドサッカーが求めるセントラルMFのステレオタイプ、すなわち筋肉と闘争心と30mのミドルシュートで成り立っている武闘派とはまったく正反対ではある。

 そればかりかイタリアですらも、ジョルジーニョを肯定的に評価する声は少なかった。1982年W杯の英雄であるマルコ・タルデッリは、マンチーニ監督就任から間もない2018年秋、UEFAネーションズリーグでポーランドに引き分けた試合で、ビルドアップにおけるパーソナリティに欠けている、と言って批判した。この試合、ジョルジーニョはジエリンスキにマンツーマンの密着マークを受け、ボールに触れる機会がいつもよりずっと少なかったにもかかわらずだ。イタリアにおける評価を反映するようなタルデッリの批判に対して、ジョルジーニョはこう反論した。

 「マーカーに貼りつかれている時には、僕が動いて彼を釣り出す必要があるんです。そうすれば味方が使うスペースができますから。僕のポジションでは、プレスを受けている時にボールをこね繰り回しているわけにはいきません。奪われたら一巻の終わりですからね」

 2021年7月6日、ウェンブリー。イタリアはEURO2020準決勝でスペインと戦っていた。マンチーニはサッリと同じように自身の原則を曲げ、チームの重心を下げて相手の攻撃を受け止め、どうにかこうにかPK戦にたどり着く。試合を通してダニ・オルモという亡霊につきまとわれたジョルジーニョは、今度はイタリア最後のキッカーとしてペナルティスポットに向かう。その後何が起こったかに、多くの言葉を費やす必要はないだろう。ジョルジーニョがボールを蹴り出す直前に早くも尻餅をついているウナイ・シモンをとらえた写真は、アズーリの歴史を長く彩る1枚になるだろう。

EURO2020準決勝スペイン戦、ウナイ・シモンの逆を突きPKを決めるジョルジーニョ

 その間に、ジョルジーニョに対する人々のイメージは文字通り逆転していた。今や彼はマスコミとサポーターのアイドルであり、その存在価値を議論の的にする勇気を持つ者は誰一人いない。彼こそがバロンドールにふさわしい、という声すら方々から聞こえてくるほどだ。

 それではジョルジーニョは、この2年半の間にプレースタイルを一変させたのだろうか? 突然エリア外から矢のようなミドルシュートを放つようになったのか? ピルロのように最終ラインの頭を越えるキラーパスを蹴り出すようになったのか? いや、そんなことはまったくない。ジョルジーニョは今も、パス成功数のデータを膨らませる以外に価値のないイージーなショートパスを出し続けるだけの無能な選手だと糾弾された、あのジョルジーニョのままだ。

 変わったのは、それを見る我われの目の方だ。ピッチ上の結果を通して、彼のショートパスが持つ価値に目を開かされ、それを評価できるようになった。実際、ジョルジーニョが出すパスの中には、ほんの数メートルでありながら極めて難易度の高いものもある。敵の間の狭いスペースを割ってその背後の味方に送り届けるキーパスがそうだ。しかし、一見すると何の優位性も作り出さないように見える短いパス交換の方が、数の上ではずっと多い。となれば、パスそのものが持つ意味よりも、それが周囲の敵味方にどんな影響を及ぼしているかの方に注目する必要があるだろう。……

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イタリア代表ウルティモ・ウオモジョルジーニョチェルシー分析

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ウルティモ ウオモ

ダニエレ・マヌシアとティモシー・スモールの2人が共同で創設したイタリア発のまったく新しいWEBマガジン。長文の分析・考察が中心で、テクニカルで専門的な世界と文学的にスポーツを語る世界を一つに統合することを目指す。従来のジャーナリズムにはなかった専門性の高い記事で新たなファン層を開拓し、イタリア国内で高い評価を得ている。媒体名のウルティモ・ウオモは「最後の1人=オフサイドラインの基準となるDF」を意味する。

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