昨シーズンのペドリに続き、またしてもバルセロナのカンテラからトップチーム、そしてスペイン代表で活躍する逸材が現れた。17歳62日というスペイン史上最年少でA代表デビューを飾ったガビだ。この若者は「MF大国スペイン」の中で、なぜルイス・エンリケに認められたのだろうか? 同国在住の木村浩嗣氏に解説してもらおう。
本名パブロ・マルティン・パエス・ガビラ、通称ガビが先日のUEFAネーションズカップ、準決勝イタリア戦でデビューし、しかも大活躍したことはスペインでも大きな驚きを持って受け止められた。17歳62日でのフル代表デビューはスペイン史上最年少で、大抜擢したルイス・エンリケ監督自身が「呼ぶのが早過ぎたかもしれない」と試合前に語っていたからだ。
世界に目を向ければウーデゴール(15歳253日)、サミュエル・エトー(15歳364日)、マラドーナ(16歳130日)、ペレ(16歳257日)、ベイル(16歳315日)なんて凄い記録もあるが、日本だと高校生の少年がU-21を経由せず欧州王者を争う準決勝、決勝(対フランス)で先発、というのはやはり衝撃である。ベティスのカンテラから11歳で引き抜かれ、バルセロナでは「ガビを見に行く」ファンもいた彼は、早熟で別格の天才だった。
とはいえ、新記録を樹立した裏にはやはり状況や運があった(というか、すべての招集や起用にはそれらがつきものなのだが)。
「バルサの未来を担う選手ということでは疑いない。ケガ人が出ていることと、この日程では別の(彼のような)選手を呼ばざるを得ない」
同じMFのソレール、カナーレス、マルコス・ジョレンテ、ペドリらが万全なら招集は見送られていたと、このルイス・エンリケの言葉からは解釈せざるを得ない。と同時に、刷新の意識が強い監督だったこともガビには追い風になった。ルイス・エンリケは自分がリーダーとなって若手中心の“エンリケの代表”を作ろうとしている。例えばCBはエリック・ガルシア、ラポルト、パウ・トーレスの3人で回し、たとえセルヒオ・ラモスが復帰しても今後招集されることはないのでは、と囁かれている。もしルイス・エンリケが「ベストの選手を使う」という、デル・ボスケのような監督ならパレホやジョルダンが呼ばれていたかもしれない。スペインはMF大国、人材がいない、ということはない。
クラブでも同じである。バルセロナが史上最大の経営危機に陥ってなければ、Bチームを経ずしてトップデビューしレギュラー確保というのはなかった。ユースのままではルイス・エンリケの目に留まることは間違いなくなかった。
「繊細なテクニシャン」は死語。ベラッティを封じた守備
もちろん以上のことは、ガビのメリットを減ずるものではない。記録作りのために数分間出してもらったのではなく、9年ぶりのタイトルを懸けた大一番でイタリア、フランス相手に先発し、それぞれ83分間、75分間プレーしたのだから。
この2試合でまず驚かされたのは、大人に囲まれた少年の違和感のなさだ。びびったり遠慮するようなところは皆無で、普通に前からいたようにプレーしていて悪目立ちしていない。注目していないとわからないほど溶け込んでいる。この辺りは最近の若い選手の特徴で、メンタル的な育成の成果であろう。……
Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。