第2回のUEFAネーションズリーグは、スペインとの激闘の末にフランスが頂点に立った。EURO2020のベスト16敗退で厳しい批判にさらされていたデシャンのチームにとって、大きなタイトル獲得だった。特に重要な収穫は、難しい立場に立たされていたベンゼマとムバッペという新旧両エースが、それぞれ真価を発揮したことだ。
キリアン・ムバッペの「オフサイド疑惑」ゴールが決勝点になったことで、スッキリしないエンディングではあったが、10月10日、ミラノのサンシーロスタジアムで行われた決勝戦でスペインを2-1で下したフランスが、UEFAネーションズリーグ2代目の優勝者となった。
まだその価値が十分に確立されていない感があるコンペティションとはいえ、この夏のEUROで、優勝候補の筆頭にありながらラウンド16で敗退、というふがいない結果に終わったフランスにとっては、その直後、そして1年後にW杯を控えたこのタイミングでトロフィーを勝ち取った意味は大きい。
とりわけ大きな収穫だったと言えるのは、レ・ブルーの元エースと新エース、カリム・ベンゼマとキリアン・ムバッペが、自分たちの真価をあらためて証明する場となったことだ。
ベンゼマは、準決勝のベルギー戦では、2点ビハインドで迎えた後半62分に、反撃の狼煙となるフランスの1点目をマーク。次のスペイン戦でもミケル・オヤルサバルに先制点を許した直後に同点に返すという重要なゴールを決めた。
ベルギー戦でのシュートは、ゴールを背にしてボールを受けた状態から振り向きざまに射抜くという、難易度の高い見事な一撃。そしてスペイン戦でも、ペナルティエリアのコーナー付近から矢のようなボレーを突き刺した。シュートの素晴らしさもさることながら、失点直後に取り返して試合の流れが相手に傾くのを食い止めるという、これぞまさに値千金のゴールだった。
そしてこの両ゴールをアシストしたムバッペは、ベルギー戦では同点となるPKを決め、スペイン戦では勝ち越しゴールと、2得点2アシストの活躍で優勝に貢献した。
――と新旧両エースが本領発揮しての優勝達成となったのだが、その背景には、それぞれにドラマがあった。
エゴイストは過去の話。生まれ変わったベンゼマ
ベンゼマは、2015年10月のフレンドリーマッチ、対アルメニア戦を最後に、フランス代表から“干されて”いた、レ・ブルーの元・大エースだ。
A代表出場92試合で33得点。フランス代表の歴代得点数では6位につけている。
しかしゴールの内訳を見ると、半数近い15点がフレンドリーマッチでの得点で、EUROやW杯の予選といった公式戦では、フェロー諸島相手に計3得点の他、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ルクセンブルク、アルバニア、エストニアといった、グループ内でも下位にいる格下相手の得点がほとんど。勝敗がものをいう予選での得点が相手によらず重要なのは間違いないが、2012年のEUROでは0得点、準々決勝でドイツに敗れるまで全試合にフル出場した2014年のW杯では、得点はグループリーグのみで決勝トーナメントではノーゴールと、「ここぞ」という場面では、彼は得点することができていなかった。
レアル・マドリーでは毎年コンスタントに20点以上マークし、ゴールゲッターとして揺るぎない才を証明をしていたが、フランス代表では「エース」らしい場面での得点がなく、「期待されているほど活躍しない」「いっそ彼なしで、パワーバランスが分散された方が機能するのでは?」という印象を抱かせる選手となっていたのだ。
彼がフランス代表から追放に近い扱いを受けたのは、スキャンダルへの関与といったピッチ外での問題が主な理由ではあったが、それでも例えばクリスティアーノ・ロナウドのように、ここ一番、という試合で必勝ゴールをバンバン献上するような選手だったら、フランスサッカー連盟(FFF)も同じ決断には至っていなかったかもしれない。……
Profile
小川 由紀子
ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。