序盤7試合を終えた2021-22のリーガで、1試合未消化ながら3位とスタートダッシュに成功しているセビージャ。近年、安定して上位進出を果たし欧州カップ戦でも好結果を残せているのはSDのモンチを筆頭とする有能なフロントの存在や、優れたスカウティングといったスタッフ陣の貢献の成果でもある。
その優秀なスカウト陣の中でアナリストとして活躍しているのが、2019-20にはアナリストとしてEL制覇も経験している若林大智氏だ。今回はその若林氏に2021年2月17日(●2-3)、同3月9日(△2-2)に行われた2020-21CLラウンド16、ドルトムント戦の2試合を例に、世界トップレベルの現場で実践している対戦相手分析の全容、アナリストという仕事の実態についてたっぷりと語ってもらった。
『フットボリスタ第84号』より掲載
── 今回はプロの観戦法に学ぶということで、セビージャのアナリストとしての対戦相手分析という現場での話をできるだけ具体的に聞きたいと思います。相変わらず忙しいですか?
「そうですね。ただ、2つの大会(CL、コパ・デルレイ)で敗退しちゃったんで、この先はキツキツでやってきた日程からは解放されるというか。残念なんですけどね……」
── 前回のインタビュー時から2020-21になって仕事のやり方が変わり、さらに忙しくなったと聞いたんですけど、どんな感じに変わったのですか?
「2019-20はデータのスタッフを除くとアナリスト3人で分担して1つの対戦相手を分析していましたが、2020-21は1人が対戦相手のすべてを分析する体制に変わり、戦術テクニカルレポートとセットプレーのレポート、選手個人のレポート、フィニッシュに関わる選手のレポート――これはFWやウインガーが対象ですが、要望があれば10番(トップ下)の選手も含めます――という4つのレポートをまとめています。これを3人で順番に、次の対戦相手分析はこの人、その次はこの人というふうにローテーションで回していく形です。前半戦でレアル・マドリー戦の分析をしたから後半戦でもレアル・マドリー戦を任されるとは限りません。自分は次、セルタ戦(4月12日)を担当しているんですけど、前半戦でセルタ戦を担当した仲間は直前に監督交代があって全部無駄になった、ということがありました(笑)。セルタに限らず1週間1試合ペースで時間的余裕のあるチームは、対策もしっかりしてくるし、戦術も成熟するのが目に見えてわかります。手強い相手になりそうです」
── ああ、そうなんですか。昨季とはまったく違いますね。すると、こちらが想定していたケースワーク、CLラウンド16のドルトムント戦の2試合の担当が大智さんではなかったかもしれないということですね。
「そうです。でも、僕だったんです(笑)。だから質問事項をもらった時に何も言わなかったんですが」
対戦1週間前までに4試合を解剖
── 良かったです(笑)。では、そのドルトムント戦の第1レグの対戦相手分析についてお話を伺っていきます。まずこの試合は2月17日の開催でしたが、分析を始めたのはいつからですか?……
Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。