日本一まで、あと1分――。8月中旬から下旬にかけて開催された今年の全国高等学校総合体育大会、通称“インターハイ”。その決勝戦で、今年度の高校年代ナンバーワンチームと評されている青森山田高校を向こうに回し、後半終了間際まで1点をリードするなど、最強王者を土壇場まで追い詰めた米子北高校が、福井の夏を席巻した。
もともと毎年好チームを作り上げてくることでも知られ、昌子源(ガンバ大阪)や佐野海舟(FC町田ゼルビア)などJリーガーも輩出しているこの高校は、果たしてどういう日常を積み重ねて、全国準優勝まで辿り着いたのか。育成年代を精力的に取材する森田将義氏が、米子北を率いる中村真吾監督にさまざまな話を伺った。
「演技や歌声と同じで、見る人を感動させるサッカーがある」
2年ぶりの開催となったインターハイで関係者を唸らせたのが、米子北高校だ。土壇場での同点ゴールからPK勝ちを収めた初戦の帝京高校戦を皮切りに、一戦一戦逞しさを増し、決勝まで登り詰めた。決勝でも青森山田高校から先制点をマーク。後半終了間際と延長後半終了間際に許した2失点で逆転負けしたが、高校年代最強と言われるチームを相手に一歩も引かず、最後まで懸命に戦う姿は強烈なインパクトを残した。
サッカーのスタイルは、決して派手ではない。粘り強い守備に重点を置き、堅守速攻を得意とするチームだ。昨年度の選手権で対戦した山梨学院高校の長谷川大監督が、「米子北は相手の匂いを消すのが得意なチーム」と評する通り、豊富なスタミナで相手の特徴を上手く消し、自分たちの流れに持ち込んでいく。
タレント面で見ても中学時代に華やかな経歴を持つ選手は、ほとんどいない。チームOBの顔と言える日本代表のDF昌子源(ガンバ大阪)も、中学時代に一度サッカーから離れている。FC町田ゼルビアの副将を務めるMF佐野海舟も、関西の高校へと進学するつもりでいたが、セレクションで落ちて米子北へと来た選手だ。サッカー選手としての素質はあるものの、戦う姿勢や献身さが足りない選手を徹底して鍛えあげるのが米子北のカラー。
「演技や歌声と同じで、見る人を感動させるサッカーがあると思う。うちは技術的に魅せて感動させることはできなくても、一生懸命走ったり、手を抜かずチームのために走ったりすることで感動させたい」
中村真吾監督の言葉通り、質実剛健という言葉がよく似合うチームだ。
選手に求めるチームスタイル同様、中村監督の指導スタイルも常に懸命だ。「頑張れる環境を作るのが、僕らの役割」と、練習から常に100%の力を発揮するよう厳しいコーチングを欠かさない。試合でも選手に後悔して欲しくないとの想いから、常に全力で叱咤激励を飛ばしている姿が印象的だ。
「毎週末の試合で負けたくないという気持ちだけでやってきた。日々の練習も一つひとつ手を抜かずやっている」
常に熱く選手と向き合う指導は、チームの礎を築いた城市徳之総監督を含めたスタッフ全員で行っており、毎年好チームに仕上がる原動力となっている。
いろいろな“大人”と関わる。多角的な思考の大切さ
中村監督は「毎年毎年変わらずやり続けていく中で、たまたま今回はたどり着けた」とインターハイでの躍進について評するが、コーチから監督へと昇格した2016年以来、全国大会での躍進を目指し、様々な取り組みを行ってきた。そのきっかけとなったのは、高校年代最高峰『プレミアリーグWEST』への昇格だ。初年度の2017年度は残留を果たしたが、翌2018年度は18試合で57失点。1勝17敗で最下位に終わり、「スピード、フィジカル全てを上げていかなければいけないと感じた」(中村監督)。……
Profile
森田 将義
1985年、京都府生まれ。19歳から関西のテレビ局でリサーチ、放送作家として活動。サッカー好きが高じて、2011年からサッカーライターとしての活動を始める。現在は高校、大学など育成年代を中心に取材を行い、各種媒体に寄稿。