マウリツィオ・サッリ(2015年6月〜2018年5月)が作り上げたナポリのプレーは、誰が呼んだか「世界一美しいフットボール」。ピッチの細部に至るまで完璧さを追い求めた稀代の戦術家によって、究極のオートマティズムを植え付けられたチームはその後どうなったのか。あの美しいフットボールは、まだそこに残っているのか。奇跡のナポリはなぜ生まれたか、そしてどのような道をたどり、今どこへ向かおうとしているか。本稿では、5人の歴代指揮官たちの挑戦を振り返りながら、SSCナポリの未来を探っていく。
SSCナポリの現在地【前編:ベニテス〜サッリ〜アンチェロッティ】はこちら
意地汚く闘え
:ジェンナーロ・ガットゥーゾ(2019年12月〜2021年5月)
選手たちに規律を植え付け、崩壊したチームを再建する。口で言うのは簡単だが、とてつもなく困難だ。だがこの難題をしっかりとやってのけた。前任のカルロ・アンチェロッティがミラン時代に指導した教え子、ジェンナーロ・ガットゥーゾその人が。
ウィンターブレイク前に就任、直後の数試合では結果が出なかったが、サッスオーロ戦の劇的な逆転勝利でチームは息を吹き返した。年明けからは[4-1-4-1]の低いブロックを敷いた撤退守備で、ラツィオ、ユベントス、そしてCLではバルセロナと強豪相手に勝ち点を奪う。引いて守って、スペースを埋めて、奪えばカウンターやセットプレーでしぶとく勝つ。これまでとはまるで違うフットボールだが、結果がついてくることでチームは徐々に自信を取り戻した。無冠で終わった前任者2人に対して、ガットゥーゾは就任後すぐにチームを立て直すと、コッパ・イタリアのタイトルを獲得した。皮肉なものだ。
南イタリア・カラブリア出身のガットゥーゾは、チームに足りないのは“Cazzimma”だと看破した。「人を出し抜いてでも自分に利するための行為、ずる賢さ」のように訳されるナポリ方言である。何が何でも試合に勝つという意地汚さ、とも言えるかもしれない。事実、生き返ったガットゥーゾのナポリは、アンチェロッティの時には見られなかった執念をピッチ上で見せるようになる。何よりも大きかったのは、ガットゥーゾとのコミュニケーションを通して、ロレンツォ・インシーニェが精神的な成熟を見せたことだ。マレク・ハムシクが退団(2019年2月)したことでキャプテンに就任したインシーニェは、ガットゥーゾの下で試合を決定づける頼れるベテランへと成長していく。……
Profile
大田 達郎
1986年生まれ、福岡県出身。博士(理学)。生命情報科学分野の研究者。前十字靭帯両膝断裂クラブ会員。仕事中はユベントスファンとも仲良くしている。好きなピッツァはピッツァフリッタ。Twitter:@iNut