海外フットボールの観戦を続けていると、いろいろな知識が増えていく。場所も知らない街のクラブに詳しくなる。行ったこともないスタジアムの名前を覚える。外国の言語を理解できるようになる。単なるスポーツ観戦を超えた「バーチャル・フットボール・トラベル」とでも言うべき体験は、フットボールを愛する多くの人々の楽しみの一つだと思う。
そうして世界には、様々なフットボールクラブがあることを知る。グローバルにファンを持つメガクラブや、強豪リーグで上位を争うビッグクラブだけではない。伏兵。ライジング・スター。地方の小さな街の小規模なクラブ。大一番でのスーパープレーや番狂わせで、鮮烈な印象をファンに植え付けるクラブが、たびたびフットボールシーンに現れる。
私にとってのそれは、例えばFKの名手ジュニーニョ・ペルナンブカーノを擁してリーグ1を7連覇したリヨンであったり、バイエルン・ミュンヘンを脅かす存在としてブンデスリーガで台頭したユルゲン・クロップのボルシア・ドルトムントであったり、「大穴」としてプレミアリーグ優勝を果たしたレスター・シティであったりする。どれも普段は私が観戦していないリーグのチームだ。だが、彼らの残した強烈なインパクトは忘れがたい。
イタリア・セリエAのSSCナポリも、少なくないフットボールファンにとって、そんなクラブの1つかもしれない。2015-16シーズンから指揮を執ったマウリツィオ・サッリが作り上げたナポリのプレーは、誰が呼んだか「世界一美しいフットボール」。自陣深くからポゼッションを開始し、左サイドのトライアングルが小気味よくショートパスを繋ぐうちに相手の守備は陣形を崩され、ゴール前に侵入したCFや逆サイドのウイングがあっという間にゴールに押し込む。あのペップ・グアルディオラも絶賛した南イタリアのチームは、しかし、タイトルを獲ることはなかった。
2018年夏にナポリを退団したサッリはその後、チェルシー、そしてユベントスの監督に就任。どちらのクラブでもタイトルを獲得し、欧州の名将の仲間入りを果たしたと言ってよいだろう。では、ナポリはその後どうなったのか。ピッチの細部に至るまで完璧さを追い求めた稀代の戦術家によって、究極のオートマティズムを植え付けられたチームはその後どうなったのか。あの美しいフットボールは、まだそこに残っているのか。
奇跡のナポリはなぜ生まれたか、そしてどのような道をたどり、今どこへ向かおうとしているか。本稿では、5人の歴代指揮官たちの挑戦を振り返りながら、SSCナポリの未来を探っていく。
イタリアからヨーロッパへ
:ラファエル・ベニテス(2013年5月〜2015年5月)
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Profile
大田 達郎
1986年生まれ、福岡県出身。博士(理学)。生命情報科学分野の研究者。前十字靭帯両膝断裂クラブ会員。仕事中はユベントスファンとも仲良くしている。好きなピッツァはピッツァフリッタ。Twitter:@iNut