ジョバンニ・ビオ(セットプレー専門コーチ)独占インタビュー
ロベルト・マンチーニの下でEURO2020を制したイタリア代表に、セットプレー専門コーチがいたのをご存じだろうか? 2017年に『セットプレー最先端理論』を上梓したジョバンニ・ビオだ。短期決戦のトーナメントではセットプレーが勝敗を分けることも珍しくない。この分野では随一の実績がある専門家に、イタリア代表での仕事、そしてセットプレーの最先端トレンドを聞いた。
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イタリア代表にはセットプレーコーチがいた!
――まず、イタリア代表のセットプレーコーチに就任した経緯から聞かせてください。
「去年の9月にミステル(マンチーニ)から連絡を受けて、一度ローマで会って1時間ほど何ができるかについて話をしたのがきっかけだった。その1週間後に、コベルチャーノにスタッフとして来てくれないかというオファーがあって、私も喜んでそれを受けた。
その前年はメキシコでパチューカと男女メキシコ代表の仕事をしていて、ちょうどオリンピックを控えていたのでそのまま残りたかったんだが、コロナ禍が起こってすべてがストップしてしまい、仕事を切り上げて帰国せざるを得なくなったんだ。その直後に、私の一番のパートナーであるワルテル・ゼンガがカリアリの監督に途中就任したので、中断明けからの2カ月半はカリアリで仕事をしたのだけれど、それもそのシーズン限りで終了。ちょうどそのタイミングでマンチーニから連絡を受けたというわけだ」
――あなたは長年クラブと仕事をしてくる中で、代表チームでも仕事をしてみたい、と言っていましたよね。メキシコ、そして今回のイタリアでそれが具体化したわけですが、代表はクラブに比べて時間的制約があって、セットプレーのトレーニング、それ以前にそもそもセットプレーについてできることが限られてくると思います。そのあたりはどのように対処したのでしょうか?
「代表は多くても年に4、5回、10日ずつしか集まることができないから、トレーニングに費やせる時間は大きく限られてくる。限られた数の、シンプルで反復可能なプランに絞り込んで提示する必要がある。これはクラブにも言えることだけれど、交代が5人になったため試合が後半になるとセットプレーをめぐる状況が大きく変化する。だから途中から入った選手でも対応できるような仕組みにしておくことが必要だ。セットプレーにおいて与えられるポジションとタスクは、オープンプレー時のそれとはまったく異なっている。例えば同じセントラルMFが交代するだけでも、大柄でヘディングの強い選手が下がって小柄でテクニカルな選手が入ったら、CKで前線に上がっていくタスクと後ろに残るタスク、あるいはキッカーのタスクを誰かと入れ替える必要が出てくるかもしれない」
――去年の9月から仕事をスタートしたということは、年内に3回、10日ずつの代表招集があって、その後は3月のW杯予選とEUROの直前合宿だけで本番に臨んだわけですよね。この限られた時間と機会の中で、どのように仕事を組み立てたのでしょう?
「基本的な考え方は、戦略レベルでいくつかの原則を決めて、日常のトレーニングはそれをチームに浸透させることに重点を置き、試合にあたっては起用される選手と対戦相手の特徴に応じて、毎回異なるプレーを設計し実行するというものだ。オープンプレーでそうであるように、セットプレーでも選手一人ひとりが担うべきポジションとタスクを持っている。それに応じて設定されたプレー原則をトレーニングに組み込み、具体的なプレーパターンは試合によって変えるわけだ」
――具体的に、どのような形でセットプレーのメニューをトレーニングに組み込んだんですか?
「最初のアプローチとして、私は選手をセットプレーにおける役割別に3つのグループに分類し、それぞれに原則を設定してそれを浸透させることに重きを置いた。まずは選手の特徴や個性を見出して適材適所に配することが重要だからね。具体的には、『ニアサイドに飛び込んで敵DFと競り合う肉弾戦を担当するグループ』、『ファーサイドに回り込んで合わせるグループ』、そして『キッカーとエリア外でセカンドボールに備える選手のグループ』だ。例えばダンブロージオは、一見すると大柄だしニアポストでの競り合いを得意とするタイプのように見えるけれど、本人に聞くとファーサイドで合わせる方が得意で、実際セットプレーからのゴールはほとんどファーサイドで決めている。大事なのは本人が自分はこれが得意だと信じていることだ。だから彼はファーサイド担当のグループに入っている。どういうスキームを使うかよりも、どうやって選手の持ち味を引き出すかの方がずっと重要だというのは、セットプレーもオープンプレーも同じだよ」
セットプレーも「プレー原則」主義へ
――一緒に本を作った4年前と比べて、メソッド的に変わったというか進化した部分はありますか?……
Profile
片野 道郎
1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。