日本代表、いつもの「対アンカー問題」。解決策はピッチにあるのか?
9月2日、W杯アジア最終予選の火蓋が切って落とされ、日本代表のスコアシートには黒星が刻まれた。敗戦という結果はもちろん、内容面でも機能不全のまま90分を終えてしまった。ただ、これは新たな切っ掛けになるかもしれない。森保体制発足当初から日本代表の現場取材を重ねてきた竹内達也記者が、積年の課題である「対アンカー問題」を深掘りする。
二つの意味での「またか」
「まさかという結果になってしまった。大変なことをしてしまったと痛感した」
これはオマーン戦を控えた合宿初日の8月30日、ロシアW杯最終予選での黒星発進を振り返った酒井宏樹による言葉だが、悲痛な歴史はまたしても繰り返された。誤審気味のPK判定とノーゴールに泣いた前回とは異なり、アジア予選初導入となったVARシステムに救われながらの敗北。内容を見ても、決定機の数で大きな差が出ており、0-1というスコアどおりの現実を突きつけられる一戦となった。
ピッチ上の出来事に目を向ければ「またか……」と言うべき悪癖が顔をのぞかせた。[4-3-1-2]のシステムを採用するオマーンに対し、生命線とも言える中央でのパスワークが機能せず、“捨てられた”サイドの攻撃も停滞。守備では列違いのアンカーとトップ下にプレッシングを打開され続け、クロスから多くのチャンスを作られた。また攻め残りながらサイドに流れる2トップに最終ラインが惑わされ、最後の最後に決壊を迎えた。
アンカーシステムを採用する相手に対し、プレッシングで後れを取るのはこれまでの森保ジャパンで何度も見られた形だ。合宿2日目の8月31日、遠藤航は守備の注意点について次のように語っていたが、まさに「結果を求めながら」の難しさを痛感させられた。
「それぞれ違った所属クラブでいろんな守り方をしている中で、ブロックを引いた方が守りやすい選手もいれば、前から行った方が守りやすい選手もいる中で、そこを合わせるのは難しいと思う。話していくことが大事だと思っているし、今はまだ完璧に仕上がることはないと思っている。この最終予選で結果を求めながらやらないといけないけど、その先にW杯を考えた時に結果を残すための準備もやっていかないといけない」
人はそろわず、練習もできず。しかし…
もちろん、最終予選という舞台を語るにはピッチ内だけでなく、ピッチ外の要素も無視することはできない。ましてや、なおも続くコロナ禍の真っただ中。斟酌すべき事情を探そうとすれば、いくつでも挙げることができる。
一つはオマーンがこの最終予選に向けて、セルビアで1カ月間にもわたる長期キャンプを行ってきたことだ。国際Aマッチウィークではないため、本来なら各国リーグ戦が行われている期間だが、大半の選手が所属する国内リーグはコロナ禍の影響でシーズン停止中。クラブチームのような事前合宿を張ることができた。その結果、2次予選やアラブカップでは間延びしがちだった[4-3-1-2]システムが日本対策として機能。クロアチア人指揮官のブランコ・イバンコビッチは事前キャンプを通じて「良い準備ができた」と成果を誇った。
対して日本は、長距離移動を伴う欧州組が大半を占めることもあり、トレーニングに全員がそろったのは試合前日のみ。またこの「全員」というのも、4人の欠員が発生した上での計算だ。移籍手続きがあった冨安健洋と、離島からの移動となる守田英正は、日本政府による「3日前入国」規制に阻まれて日本に帰国できず。また両選手の代役を担える板倉滉はリーグ戦で痛めた箇所の違和感が再発し、途中離脱を強いられた。前日練習を欠席した南野拓実は唯一ベンチ入りこそしていたが、ピッチ内練習に姿を見せず、戦力として数えることはできなかった。
その他にも、オーバーエイジも含めて9選手が参戦した東京五輪(からオフなしで入った所属クラブのリーグ戦)の“勤続疲労”、大雨によるピッチ状態とチームコンセプトの相性の悪さ、ホームで初戦を迎えることの重圧など、ネガティブ要素を一つひとつ数えていけばキリがない。とはいえ、そもそも結果だけが問われる最終予選という舞台において、外部要因に理由を求めるのはナンセンスかもしれない。
「言い訳無用」――代表主将の標準装備
実際にオマーン戦の試合後、吉田麻也にオマーンのような常識外れの強化策を敷いてくるチーム(次戦の中国も同じだ)に対し、「日本が置かれた環境でどのように戦っていくべきか」を尋ねてみた。
するとやはり、そうした言い訳めいた見方を否定すべく、「日本に帰ってきてコンディションが悪いとか、時差があるとか、相手の状態が良いとかは言い訳にはならない。できないなら他の選手で23人をそろえればいい。ここに来ているからには日本を背負って戦って、そういう状況でも結果を出していくのが使命」というシンプルな答えが返ってきた。
それどころか、W杯出場経験を持たないアジア各国のレベルが向上しているという文脈では「自分たちのレベルも上がっていないといけないし、世界に近づいていきつつも、アジアで結果を残していけるレベルに最低限ならないといけない」ときっぱり語った。その上で、「日本はアジアで一番強いチームだと思っているので、言い訳は通用しないと思う。それができないなら日本代表になる資格はないし、僕自身もプレーで示さないといけない」と自らにも矢印を向けながら覚悟を語っていた。
誤解してほしくないのは、吉田が敗戦の分析を差し置いて、無鉄砲な覚悟を語っているわけではないということだ。
年末年始も中断しないプレミアリーグにギリギリまで出場し、合流からわずか3日間で初戦を迎えた2019年1月のアジアカップ。スコールや未整備ピッチで練習場も定まらず、アウェイの環境に悩まされたW杯2次予選序盤戦。感染対策で選手間の交流もままならず、練習場の限られた時間ですり合わせを重ねたコロナ禍の戦い。そのたびごとに乗り越えるべき課題と向き合い、常に説き続けてきた“標準装備”の覚悟だ。
この日のオマーン戦でも難しいピッチコンディションにいち早く適応し、浮き球を有効活用していたのが吉田だった。
「ウォーミングアップの時にボール回しをしていて、かなり水捌けが悪くボールが止まっていたので、短いパスに気をつけようとは話していて、相手のCBも高さがあるわけではないので、大迫選手に起点になってもらうという考え方でボールを運ぶことを意識していて狙っていた」
言い訳を排しつつ、目の前の課題にコミットしていく姿勢。それはコロナ禍無観客で難しい調整を迫られた東京五輪においても、若手選手の指針となっていたはずだ。
「アンカー対策」をやれない理由
ただ、そんな吉田でさえ、ピッチコンディション対策に次のような言葉を続けた。
「最初はいくつかできたけど、それがなかなかできなくなって、(前線の)動き出しも淡白になって、ボールをなかなか出せなくなった」
やるべきことは分かっているのに、遂行することができない——。ここに今の日本代表が直面している課題があるように思われる。
この問題を掘り下げるにあたっては、冒頭に述べたように森保ジャパンがこれまで苦手としてきた「アンカー対策」が象徴的だ。……
Profile
竹内 達也
元地方紙のゲキサカ記者。大分県豊後高田市出身。主に日本代表、Jリーグ、育成年代の大会を取材しています。関心分野はVARを中心とした競技規則と日向坂46。欧州サッカーではFulham FC推し。かつて書いていた仏教アイドルについての記事を超えられるようなインパクトのある成果を出すべく精進いたします。『2050年W杯 日本代表優勝プラン』編集。Twitter:@thetheteatea