東京五輪スペイン戦で、「今、世界でも1、2を争うビルドアップの名手」のプレーを間近で見られたのは、日本サッカーにとって格好の学びの機会になるかもしれない。パウ・トーレスの世界最高峰とも言える「ボールを運ぶ」技術を、結城康平氏に解説してもらおう。
現代フットボールにおいて、CBは守るだけの存在ではない。所属するボローニャでは、ビルドアップ能力でも評価を高めている冨安健洋のように彼らは「攻撃の起点」として期待されるようになっている。
実際に、強豪クラブのCBには中盤と比べても見劣りしないテクニックが求められるようになった。激しくボールを跳ね返すフィジカル自慢が並ぶDFラインではなく、ビルドアップで緻密にボールを動かすCBが増えているのが現実だ。典型的なのは、マンチェスター・シティのジョン・ストーンズや今季からバルセロナに加入するエリック・ガルシア、パリSGのプレスネル・キンペンベだろう。今回は、山口遼氏の東京五輪総括記事でも言及されていたパウ・トーレスの技術に着目してみよう。
「ボールを運ぶ」CBが求められる背景
まずは、なぜ緻密にボールを動かせるCBが求められているのかを考えてみよう。
1つの大きな理由は、プレッシングの発展だ。高い位置からのボール奪回を得意とするリバプールのようなチームは、中盤へのパスコースを容赦なく遮断する。そうなった時、最終ラインでボールを保持したCBの選択肢は限られてくる。前線の選手が迫ってくる厳しい状況だが、そんな中で数mを持ち運べれば「新たなパスコースを生む」ことが可能になる。特に中盤へのプレッシングが相当タイトになっていることもあり、結果的にCBの方が状況を判断する時間とスペースを得やすい。中盤での数的優位を作ることを狙うチームにとって、CBがボールを運ぶことはシンプルな解決策になるのだ。
もう1つ、3バックの流行はCBに「運ぶ能力」を今まで以上に求めている。守備時に3枚を中央にそろえることでスペースを消す3バックを得意とする指揮官は、攻撃時には後方に人数が多いことをビルドアップでの数的優位として解釈することが多い。アタランタのガスペリーニが典型的だが、CBの攻撃参加がチームの重要な打開策となっている。レアル・マドリーやレスターも、3バックからの攻撃参加でチェルシーに対抗しようというアプローチを試みたように「3バック」と「CBの攻撃参加」を組み合わせることで、多くのチームが金脈を探している。
そのためには、距離感をコンパクトに保ちながら、ボールを前進させられるCBが重要になる。だからこそ、スペイン五輪代表はエリック・ガルシアとパウ・トーレスのコンビをCBに起用したのだろう。
パウ・トーレスのプレーから学ぶべき「匠の技」
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Profile
結城 康平
1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。