「サッカーの現場はもちろん、ファン/サポーターが使える実践的な分析のフレームワークはないか?」。現場での指導活動と並行してアカデミックな視点からサッカーを捉える山口遼氏にこんな質問をぶつけてみたところ、彼が昨シーズンまで監督を務めた東大ア式蹴球部のスタッフにも伝えていたという3つの分析法を明かしてくれた。山口氏の書籍第2弾『シン・フォーメーション論』出版を記念して、その分析手法について記した記事を公開する。
『フットボリスタ第84号』より掲載
ビジネス界で世界的にデータ分析全盛の時代であることも影響しているのか、キャッチアップの早いヨーロッパサッカーのトップレベルでは量子物理学のPhDの資格保持者をデータアナリストとして雇用するなど、データ分析の重要性は日増しに高まってきている印象だ。一方で、日本はサッカーに限らずデータ後進国にカテゴライズされ、IMDの発表したデジタル競争力ランキングでは先進国の中ではかなり低い位置の27位に甘んじている。とはいえ、データ分析におけるデータ解釈や評価変数の設定の難しさなどから、データ分析の発達のいかんにかかわらず、いわゆる「質的な研究」の重要性もまた様々な業界で唱えられている。「質的な研究」とはすなわち、定性的な研究のことである。サッカーにおける「質的な分析」もまた、国やレベルの違いを問わず依然として重要であり続けている。
一言で「サッカーの分析」と言っても、費やす時間や分析の目的によっていくつかの種類に分類することができる。ざっくり分けてしまえば、かける時間が短いものから順に「リアルタイム分析」、「簡易分析」、「詳細分析」の3つに分けられる。これらは私が勝手につけた名称だが、便宜上このように表記することにする。この記事では、これらのそれぞれ特徴の異なる分析フレームワークの手法や違いについて、ページ数の関係で簡単な説明にはなってしまうが、できるだけ詳しく紹介していきたい。
●リアルタイム分析
目的:試合中のリアルタイムでの分析、展開予想、改善のための提案
用途:指導者の現場采配、分析スタッフの指導者への提言
●簡易分析
目的:マクロな戦術分析、簡単な展開の予想
用途:監督の行うスカウティング、試合の流れ分析、戦術トレンド分析
●詳細分析
目的:ミクロな戦術分析(個人戦術、局所的相互作用)、詳細な分析による“答え合わせ”
用途:分析スタッフの行うスカウティング、研究、個人パフォーマンス分析
簡易分析:開始15分までは準備の確認、それ以降は修正と適応
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Profile
山口 遼
1995年11月23日、茨城県つくば市出身。東京大学工学部化学システム工学科中退。鹿島アントラーズつくばJY、鹿島アントラーズユースを経て、東京大学ア式蹴球部へ。2020年シーズンから同部監督および東京ユナイテッドFCコーチを兼任。2022年シーズンはY.S.C.C.セカンド監督、2023年シーズンからはエリース東京FC監督を務める。twitter: @ryo14afd