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女子サッカーのスプリント能力向上に必要なトレーニングは何か?リバウンドジャンプ研究の成果からの提言

2021.08.02

2021年9月のWEリーグ開幕を控え、注目度が高まる女子サッカー。そうした中、女子サッカー選手を対象とした興味深い研究論文が発表された。論文名は「大学女子サッカー選手のリバウンドジャンプにおける下肢筋力・パワー発揮特性:各種走能力、筋力との関係性および競技レベルによる違い」。高い競技レベルを有する女子サッカー選手の特性分析と、競技力向上に向けた提言が記されている。発表者は筑波大学で陸上競技のコーチング論・トレーニング学領域を専門とする特任助教の吉田拓矢氏。2019年から同大学女子サッカー部のトレーニングコーチも務めている。吉田氏に、論文をフットボリスタ用に再編集してもらい記事化した。

研究の背景

 私はもともと陸上競技の跳躍種目を専門とし、これまでにジャンプ運動を用いたトレーニング手段やパフォーマンス評価に関する研究について取り組んできた。また最近では、各種スポーツ選手を対象に、スプリントや方向転換、ジャンプなどの運動を用いたコントロールテストの実施やフィードバックを行い、コントロールテストを通した各種スポーツ選手のパフォーマンスを向上させるためのサポートも行っている。コントロールテストに取り組んでいる過程で、ジャンプ運動によって評価される筋力・パワー発揮能力は単純に高く跳ぶための能力だけではなく、速く走ったり、素早いフットワークを行ったりするための重要な能力であるとあらためて感じ、特に女子選手ではまだまだ伸びしろを感じる印象を受けた。今回紹介する内容は、このような疑問に対する研究である。

 本題に入るが、スプリントや方向転換は、ジャンプと同様、下肢の筋群が‘ばね’のように一度引き伸ばされてから短縮する伸張-短縮サイクル(Stretch-Shortening Cycle: 以下「SSC」と略す)運動によって遂行されている。SSC運動遂行能力のような下肢の筋力・パワー発揮能力は、垂直跳やリバウンドジャンプなどのジャンプ運動を用いて簡易的に評価することができ、陸上競技の跳躍種目では、この能力が競技力に大きく影響することが明らかにされている。また、サッカー選手を対象とした研究においても、高いレベルの男子サッカー選手はスプリント走や方向転換走のタイムが速いことに加え、リバウンドジャンプにおけるリバウンドジャンプ指数も高いことも報告されている。

 その一方で、同様の運動を実施した際、女性と男性ではその動作や身体への反応が異なることが指摘されている。だとすれば、女子サッカー選手の下肢のSSC 運動遂行能力とスプリント能力や方向転換能力との関係や、下肢のSSC 運動遂行能力の特性は、男子サッカー選手とは異なる可能性があるだろう。競技種目によってパフォーマンス変数や下肢関節(足、膝、股関節)の力発揮特性が異なることに関しては示されているが、女子サッカー選手を対象にリバウンドジャンプにおける下肢関節の力発揮特性を明らかにした研究は存在しない。

 したがって、今回紹介する研究では大学女子サッカー選手を対象に、リバウンドジャンプによる下肢のSSC 運動遂行能力を各種走能力や各種筋力との関係および競技レベルの違いから検討するとともに、リバウンドジャンプにおける下肢関節力学量を用いて、優れた下肢のSSC運動遂行能力を有する女子サッカー選手の筋力・パワー発揮特性について検討した。

研究方法

 大学運動部に所属する19名の女子サッカー選手を対象とし、所属運動部の監督と相談した上で、全日本大学女子サッカー選手権や関東大学女子サッカーリーグにおいて、先発メンバーとして出場した経験のある10 名をレギュラー群、先発出場していない9 名を非レギュラー群として分類した。

 これらの対象者に、20 mスプリントテストによるスプリント能力測定、プロアジリティテストによる方向転換能力測定、スクワットによる最大筋力測定、Biodex(多用途筋機能評価運動装置)による等速性での膝関節屈曲伸展筋力測定、垂直跳およびリバウンドジャンプによる下肢のSSC運動遂行能力測定を実施させ、各パフォーマンス変数を算出した。またリバウンドジャンプにおいては、赤外線カメラとフォースプレートを用いて地面反力および下肢関節力学量(関節トルク、パワー、仕事)を算出した。

プロアジリティトレーニング
Biodex(多用途筋機能評価運動装置)

結果

……

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女子サッカー筑波大学育成

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吉田拓矢

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