白星発進のU-24日本。厳しさ増す2戦目以降へ、改善のポイントは「左サイド」と「ゲームコントロール」
山口遼のU-24日本代表集中分析第2回:U-24日本対U-24南アフリカ
57年ぶりの自国開催となる東京五輪で、1968年メキシコ五輪以来となるメダル獲得を目指すサッカーU-24日本代表。その戦いぶりを、先日水戸ホーリーホックのスカウティングアドバイザー就任が発表され7月31日には新刊『シン・フォーメーション論』が発売となる山口遼が徹底分析する。第2回は、いよいよ本大会初戦となったU-24日本対U-24南アフリカ。南アフリカチームが新型コロナ感染に見舞われ直前まで開催か否かが決まらないイレギュラーな状況で迎えることとなったこの一戦、何より大事な結果を残したことを喜びつつ、日本のパフォーマンスに影響していた左サイドの人選と、ゲーム終盤のゲームコントロールについて深堀りする。
紆余曲折はありつつも、ついに東京五輪の男子サッカーが開幕した。南アフリカ代表は複数人が新型コロナウイルスに感染し、およそ20人もの関係者が濃厚接触者判定されるなど試合開催自体が危ぶまれたが、まずは無事に試合が開催されたことに安堵した。とはいえ南アフリカだけでなく、直前まで開催可否が分からないなど不安定なスケジュールを余儀なくされた日本代表側もおそらく相当のストレスを感じていたはずで、どちらにとっても苦しい開幕戦だったことは推し量るにかたくない。まずは通常の開幕戦以上の難しさを抱えた今回の試合の勝利を喜びつつ、今後より厳しくなってくる2試合目以降に向けて開幕戦の分析および評価を冷静に行っていきたい。
高いパフォーマンスが発揮できないのは当然である
開幕戦を戦った日本のパフォーマンスレベルは、正直に言えばあまり高いものとは言えなかった。南アフリカが守備の際にはかなり低い位置にブロックを敷いてきたこともあるが、それ以上にパスミスが多かったり、いまいちフィニッシュに迫力がなかったりと、一言で言えば「ピリッとしない」試合だったように思う。しかし、これは彼らの置かれた状況を考えれば当然のことであり、まったく責められるものではない。
まず、リーグ戦であれW杯であれ、ビッグタイトルが懸かったコンペティションの開幕戦はそれ自体相当な緊張感を感じるものであり、当然ながらほとんどの場合ベストなパフォーマンスなど出せるものではない。これは筋肉の細かい出力、特に主要筋と拮抗筋のバランスといった非常に繊細な調整が必要になるものや、さらに言えばそのための判断/意思決定といったものが選手のメンタルの状態に大きく影響されることの証拠でもある。中でもサッカーは連続してプレーが続くという競技の性質上、瞬間的な判断が繰り返し要求されるので、このようなプレーに対するメンタルの影響はより大きく出てしまう傾向にある。
そのような意味で、開幕戦というだけで相当な難しさが常につきまとうものだが、冒頭にも書いたように今回はそれ以上の難しさを抱えていた。南アフリカの関係者が複数人新型コロナウイルスの感染者あるいは濃厚接触者と判断され、試合の開催可否さえ試合の2時間前までオフィシャルには発表されない状況だった。
さらに言えば、このような厳しい状況下で行われるのは、絶対に一生に一度しか経験できない自国開催のオリンピックなのである。これだけも非日常な状況に置かれた若い選手たちがその両肩に受けるプレッシャーは、私たちの想像を絶するものであったはずだ。
このような試合では、パフォーマンスレベルが低下するのは当然である。特に、今回のように両チームの間に力の差が明確に存在する時には相対的に地力が勝るチーム、今回の日本側が圧倒的に攻め込むものの決定打が放てず、なかなか先制点が取れないという展開になりがちである。そのため、このような難しい開幕戦の最大の焦点はとにかく、「どのような形でも良いので勝ち点3を獲得できるかどうか」である。得点の形も、時間帯もはっきり言ってどうでも良い。最悪の場合は攻めあぐねているうちにミスやカウンターから失点を喫して敗北するというパターンも珍しくないのだから。
こうした試合では、上記のように足下を掬われることだけはあってはならない。敗北はもちろん、勝ち点1すら絶対に許されない。形はどうでもいいから絶対に勝ち点3をもぎ取ることが、特に今回のような短期集中開催のトーナメントにおけるグループステージでは重要である。引き分け以下の結果に終わるようなことがあれば、2試合目は「絶対に勝たなければならない試合」として極限のプレッシャーと戦わなければならず、それ以降のプランニングがまったく別物になってしまうからだ。
とはいえ終わってみれば、“取ってほしかった”役者の1人である久保建英が、それも自身の得意な形で美しいゴールを奪って勝利を収めたのだから、内容はどうあれ開幕戦としてはそれだけで100点の内容だった。
ここから重要になるのは、開幕戦に勝利できたからこそ2試合目以降に向けて今度は内容面、すなわちパフォーマンスの方を向上させていくことである。2試合目以降はメキシコ代表、フランス代表と初戦よりもクオリティの高い対戦相手が控えていることもあり、パフォーマンスアップはそのような意味でも必至だ。初戦だからこそ今回の内容でも勝利を手放しに喜べる一方で、今後もこのパフォーマンスが続けば上位にたどり着くのは難しいだろう。
そこで、2試合目以降への期待を込めて今回の試合をあらためて振り返り、冷静に成果と課題は何だったのか見ていくことにしよう。
それぞれの戦い方のおおまかな分析
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Profile
山口 遼
1995年11月23日、茨城県つくば市出身。東京大学工学部化学システム工学科中退。鹿島アントラーズつくばJY、鹿島アントラーズユースを経て、東京大学ア式蹴球部へ。2020年シーズンから同部監督および東京ユナイテッドFCコーチを兼任。2022年シーズンはY.S.C.C.セカンド監督、2023年シーズンからはエリース東京FC監督を務める。twitter: @ryo14afd