天皇杯3回戦のグルージャ森岡戦でキャプテンマークを巻いたのを最後に7月14日、清水エスパルスから同じ静岡県内に本拠を置く宿敵、ジュビロ磐田への期限付き移籍が発表された金子翔太。
J1では8試合連続でベンチ外と今季出場機会が激減していたとはいえ、かつて攻撃の中心を担った「ダンシングゴールハンター」による“禁断の移籍”に、清水サポーターの間で大きな衝撃が走った。そのうちの一人、ブログ『豚に真珠』で知られる猫煮小判氏の脳裏には今も5年前のあの日、攻守に奔走する背番号30の姿が焼きついている。
激震が走った。
2016年6月12日。IAIスタジアム日本平でのJ2第18節、清水エスパルスと横浜FCの一戦。上位進出を目指す上で落とせない一戦に、試合前は期待よりも不安のほうが勝っていた。
時は少し戻り6月8日。水曜日のナイトゲームで行われた清水とFC町田ゼルビアの上位決戦。11分にリーグトップスコアラーでもあった大前元紀がPKを決め先制に成功。その後も優位に進めていたが、40分、悲劇が起きる。大前の負傷交代。それも、肋骨骨折および肺挫傷による3カ月の長期離脱となるアクシデントに見舞われる。キャプテンでもありエースでもあった背番号10のリタイアに、1年でJ1復帰を目指すチームに暗雲が漂った。
エースを失ったチームにおいて、その穴を埋めるのは誰か。筆頭は開幕4試合をケガで欠場していた鄭大世の代役も務めた、次期エース候補の北川航也。町田戦でも決勝ゴールを決めるなど、好調を維持していた。しかし、知将・小林伸二の選択は誰もを驚かせる人選だった。
続く横浜FC戦を境に、清水は守備のやり方を変える。[4-4-2]のシステム上、相手ボランチに対しては誰がプレスに行くのかという問題について、2トップが縦関係になることで解決。鄭大世が前線に張り、プレスバックに走ったのは、本来はMFの金子翔太だった。この縦関係の2トップの守備がハマったことで安定感がもたらされたチームは3-0で横浜FCに快勝。その後もリーグ得点王に輝く鄭大世を筆頭とした破壊力抜群の攻撃力を見せ、それは大前が復帰した後も続く。
第34節セレッソ大阪戦での劇的逆転勝利から8連勝を記録し、ついに自動昇格圏内の2位に浮上して臨んだ最終節、徳島ヴォルティス戦。敵地に乗り込んだ清水は、1-1で迎えた68分、大前を下げ金子を投入。その5分後に、右サイドに流れた鄭大世から上がったクロスに金子が合わせて勝ち越しに成功。そのゴールは昇格を決めた、クラブ史に刻まれる、決して忘れることのない記憶となった。
2019年が分岐点に。鄭大世も認めた才能の栄光と転落
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Profile
猫煮小判
静岡県静岡市…いや、静岡県清水市に生まれ育った自称次郎長イズムの正統後継者。好きな食べ物はもつカレー、好きな漫画はちびまる子ちゃん、尊敬している人は春風亭昇太師匠。そして、1番好きなサッカーチームは清水エスパルス!という、富士山は静岡の物でもの山梨の物でもない日本の物協会会長の猫煮小判です。君が清水エスパルスを見ている時、清水エスパルスも君を見ているのだ。