EURO2020グループA第1節
イタリア 3-0 トルコ
マウリツィオ・ビシディが主導し、育成年代から一貫性を持って進めてきたイタリア代表のモダンサッカー革命。マンチーニのA代表も、ポジショナルプレーの考えに基づいたスタイルが導入されている。果たして、時間がないA代表でこの実験的なサッカーは可能なのか? EURO2020開幕戦のトルコ戦、欧州が注目する一戦で新生アズーリがベールを脱ぐ。
これはちょっと出来過ぎ、最初からこんなに何もかもうまく行ってこの先大丈夫か――というのが、イタリアの初戦が終わった時点での正直な感想だった。
3-0というスコアはともかく、シュート数24対3(枠内8対0)、xG(ゴール期待値)1.7対0.2、ボール支配率61対39というデータが示す通り内容も一方的で、実質トルコに何もさせずに圧勝したと言っていい。
ボールと地域の支配を通したゲーム支配、強度の高いゲーゲンプレッシングによる即時奪回という、ロベルト・マンチーニ監督が掲げるゲームモデルの根幹が狙い通りに機能したという意味で、結果だけでなく内容的にも申し分のない試合。イタリアにとってはこれ以上望めないほどの順調なスタートとなった。
トルコの[4-1-4-1]ブロックをいかに攻略するか?
マンチーニがピッチに送った11人は戦前の予想通り。システムは[4-3-3]ということになるが、実質的にいうとビルドアップ時には[3-2-4-1]、守備時には[4-5-1]となる可変システムである。トルコが最初からボール支配を放棄し、重心を低くした[4-1-4-1]で受けに回る戦い方を選んだことで、イタリアは試合のほとんどを前者の配置([3-2-4-1])で戦うことになった。
右SBフロレンツィが内に絞り、ボヌッチ、キエッリーニと並んで3バックを形成、その前にアンカーのジョルジーニョ、左インサイドMFのロカテッリが並ぶ3+2のビルドアップユニットで攻撃を組み立て、トルコ中盤ラインの背後に右からベラルディ、バレッラ、インモービレ、インシーニェ、そして早いタイミングで敵陣に進出する左SBのスピナッツォーラが5レーンを埋める形で並ぶアタッキングユニットでラスト30mの攻略を図るという構造である。
トルコは、1トップのブラク・ユルマズがイタリアのビルドアップの起点であるボヌッチからの縦パスコースにフィルターをかけ、ユズフ・ヤジシュがその背後で2ボランチをケア、さらに残る4人のMFが中央3レーンを厚くカバーするという形で、中央ルートの封鎖に優先順位を置く守備戦術を取った。これによってイタリアの組み立てをサイドに誘導、そこで圧力を高めてボールを奪い、そこから一気にカウンターで逆襲、というゲームプランである。……
Profile
片野 道郎
1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。