チェルシーが前半に奪った虎の子の1点を守り切って0-1でマンチェスター・シティを下し、ビッグイアーを掲げた20-21のCL決勝。1点を争う濃密な90分間に両チームの間で交わされた戦術的やり取りを、プレビューを執筆したらいかーるとさんが分析する。
マンチェスター・シティが使いたいエリアにあらかじめ選手を配置し、できる限り選手を動かさないという戦い方がペップ・グアルディオラ対策として今季の終盤に確立されてきた。
例えば、大外レーンからウイングが質的優位を押し付ける形に対しては、5バックで大外レーンにデュエルの専門家を配置する。ハーフスペースに走ってくる選手がいるならば、ハーフスペースに選手を置く。偽サイドバックでインサイドハーフを複数準備してくるならば、ハーフスペースにさらに選手を追加する。このようにあらかじめ選手を配置し動かさないことで、マンチェスター・シティにボールは持たれるけれど効率的に防いでいく手立ては、多くのチームにとって徐々にスタンダードなものとなっていった。
ボールを動かすんじゃない、人を動かすんだ!と言っても、相手はなかなか動かない。そこでマンチェスター・シティは次の手として、動かない相手の配置に対し配置的優位性を取れるような立ち位置を取ることを推し進めてきた。[3-2-5]から[4-2-2-2]、[3-1-4-2]への変化がその証拠と言えるだろう。つまり、相手が動かないならば動かないといけない状況を作り出すことに注力するようになっていったのだ。
そして、その答えがこの試合で見せた[3-3-1-3]だった。肝はフィル・フォデンの位置。エンゴロ・カンテとジョルジーニョの間にポジションを取ることで、彼らの移動距離に制限を作る。それにより、カンテとジョルジーニョの脇でプレーするベルナルド・シルバとオレクサンドル・ジンチェンコ(左SBの位置から移動)をより自由にすることが狙いだったのだろう。このエリアを狙い撃ちにする形は、直近のリーグ戦と同じだ。ゆえにロドリ、フェルナンジーニョがいないという意味においてのサプライズはあったが、戦術的な狙いはいつもと変わらないマンチェスター・シティがファイナルでも見ることができた。
しかし、カンテとジョルジーニョの脇を狙うこと、2セントラルハーフではなく1アンカーでビルドアップを行うことはチェルシー側からすると、決して予想困難ではなかった。よって、このグアルディオラの狙いをトーマス・トゥヘルがどのように防いでいったかを見ていく。
グアルディオラの策を読み切ったトゥヘルの対策
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Profile
らいかーると
昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』(小学館)。