フットボールバブルによる移籍金の高騰、コロナ禍による収入の減少――。目まぐるしく変わる世界に翻弄されるブンデスリーガの移籍トレンドはどこへ向かうのか。ドイツ・デュッセルドルフに拠点を置く代理人、柳田佑介氏が解説する。
※『フットボリスタ第83号』より掲載。
確立された「ブンデス→プレミア」のキャリアパス
──まずコロナ禍前までの数年間は、選手の値上がりを見据えて高額でも先行投資する“プレーヤートレーディング”の流れがありましたが、その中でブンデスリーガはどのような立ち位置だったのでしょうか?
「前提として、ドイツでは独自の『50+1ルール』に代表されるように、国民気質としてサッカーにビジネスの論理を過度に持ち込むことが好まれない風潮があります。だからブンデスリーガの各クラブは昔からできるだけ自力で主力選手を育成していたのですが、放映権料の高騰や投資家の資金投下を受けたプレミアリーグ勢が移籍補償金バブルを作り上げた結果、ブンデスリーガでも23歳以下の若手を外から獲得して育て上げ、できるだけ高額で売却するというビジネスモデルが浸透し始めました。いち早く戦略的に移籍を活用していたのがドルトムントで、イルカイ・ギュンドアンやクリスティアン・プリシッチなどをプレミアリーグに輩出しながら育成クラブとしてのブランドを確立しつつあります。彼らに続くのがRBライプツィヒで、近年はナビ・ケイタやティモ・ベルナーを送り込んでいますよね。ドイツのサッカー関係者やファン・サポーターの間ではこうした動きに疑問の声も上がっていますが、世界的な移籍市場の流れの中で選手を高く売って、その収益で国外も含め次のタレントを仕入れ続けなければならない変革期がブンデスリーガに訪れています」
──スポーツ研究機関CIESによると、実際に2010年から19年までにプレミアリーグからブンデスリーガへ7億6700万ユーロ(約959億円)が流れ込んでいて、プレミアリーグからリーグ1に次ぐ世界で2番目に大きな取引関係を築き上げています。ブンデスリーガからプレミアリーグへ進むキャリアパスが確立されつつあるということですね。
「もともとブンデスリーガには、年齢に関係なく良い選手であれば試合で起用する土壌があり、さらに高いプレー強度や規律を求める文化もありました。そうした環境で成熟したロベルト・フィルミーノ、ソン・フンミン、ケビン・デ・ブルイネ、レロイ・サネらがプレミアリーグで活躍した結果、プレミアリーグのクラブの間で『ブンデスリーガで成長した選手にはハズレが少ない』という認識が広まりました。最近ではイングランドのクラブが積極的に若手を貸し出したり、ジェイドン・サンチョやジュード・ベリンガムのように成長を求めて自らドイツへ渡る有望株が出てきたりするなど、ブンデスリーガは『プレミアリーグへの登竜門』のような位置づけになってきています」
──ジョエリントンやセバスチャン・アレのように、代表歴もないままブンデスリーガからプレミアリーグへ羽ばたく選手も現れましたよね。いかにブンデスリーガでのお墨付きが重視されているかがわかります。一方で、買い手としてのブンデスリーガはいかがでしょう? 特にフランス人選手の増加が著しく、12-13シーズンはたった3人でしたが19-20シーズンには28人。20-21シーズンも同数のフランス人選手がブンデスリーガでプレーしています。……
Profile
足立 真俊
1996年生まれ。米ウィスコンシン大学でコミュニケーション学を専攻。卒業後は外資系OTAで働く傍ら、『フットボリスタ』を中心としたサッカーメディアで執筆・翻訳・編集経験を積む。2019年5月より同誌編集部の一員に。プロフィール写真は本人。Twitter:@fantaglandista