名将マルセロ・ビエルサの守備戦術と言えば、前からハメていく極めて強度の高いマンツーマンが有名だ。しかし、就任3年目のリーズ・ユナイテッドでのサッカーを見ていると、そう単純なものではないことがわかる。プレミアリーグでエル・ロコ(狂人)の守備戦術はいかに進化しているのかを読み解いていきたい。
エル・ロコの狂気、いや狂気とも見まがう膨大すぎる熱量は、否が応でも伝搬するのだろう。前年王者リバプールや同じ昇格組フルアムとの壮絶な打ち合い。繰り返される大勝と大敗。ビエルサを意識しすぎるかのごとく采配を振るうペップ・グアルディオラ。先日も1人少ない状況からシュート2本で感動的な勝利を飾り、久しぶりにプレミア昇格したばかりのリーズ・ユナイテッドは話題に事欠かない。
今季より16年ぶりのプレミアリーグを戦っているリーズ。ビエルサは2シーズンをかけて昇格を成し遂げたが、主力の大半は就任当時の顔ぶれ。しかしながら戦前のブックメイカー各社のオッズでは概ね真ん中あたりと、久方ぶりのプレミア復帰や監督が巨匠エル・ロコであることなどご祝儀で嵩上げされた感があり、弱気ファンとしては「正直過剰人気ではないか……」と不安しかなかった。目標はとにかく残留だろうと。
しかしながら、31試合を終えて10位と堂々たる戦いぶり。14勝3分14敗、得失点差ゼロと見事な均衡を保っている。その躍進を支えているのはリーグ8位の49得点を挙げている攻撃力。同じ昇格組のウェストブロミッチが24得点、フルアムが28得点と火力不足に苦しむ中、リーズは1試合平均1.58得点と、2部リーグで戦った昨季の1.67得点(46試合77得点)と遜色のない数字を残せている。
CFバンフォードを基準にした組織的な「追い込み漁」
今回はその攻撃の秘密…ではなく、守備について。開幕節のリバプールとの壮絶な撃ち合い(●3-4)のイメージもあり、リーズの守備と言えば気合いと根性のマンツーマンというイメージが定着しているのではないか。それは間違いではなく、よく言われる「最終ラインを1人余らせてのマンツーマン」が基本にあるのだが、ただそれだけではない。
直近のマンチェスター・シティ戦で解説者の中村憲剛氏が「マンツーマン『気味』のディフェンス」と最後まで明言を避け続けたように、リーズが行っている守備はただのマンツーマンではない。もちろん、サッカーにおいては完全なゾーンディフェンスも完全なマンツーマンも存在しないが、ではリーズがどのように守備を行っているのか。それを少しだけ深堀りしてみたい。……
Profile
ジェイ
1980年生まれ、山口県出身。2019年10月よりアイキャンフライしてフリーランスという名の無職となるが、気が付けばサッカー新聞『エル・ゴラッソ』浦和担当に。footballistaには2018年6月より不定期寄稿。心のクラブはレノファ山口、リーズ・ユナイテッド、アイルランド代表。