ロベルト・デ・ゼルビの下、ポジショナルプレーを着実にチームのスタイルとして浸透させているサッスオーロ。その練り込まれたビルドアップのメカニズムと、そしてチームの特徴を東大ア式蹴球部の岡本康太郎テクニカルスタッフが分析する。
「イタリアのペップ」の異名を取るロベルト・デ・ゼルビが監督に就任し3年目のシーズンを迎えたサッスオーロ。新時代の戦術家がピッチ上に表現する綿密に計算され尽くした攻撃は、さながら見る者を魅了する芸術作品だ。ここでは、今シーズンのサッスオーロが体現する複雑なビルドアップ構造を一から紐解いていくとともに、そのサッカーの中心を担う選手、そしてチームが慢性的に抱える構造的な不安定性についても付随的に触れていきたい。
ポジショナルプレー+縦志向
ポジショナルプレーをベースにボールを支配するサッカーを好むデ・ゼルビ。その志向性は彼自身が個人的な関係を持つペップ・グアルディオラのそれと根本の面でかなり似通っており、サッスオーロでの3年間で継続的にチームに植え付けているアイデンティティでもある。今季は第30節時点で、リーグ戦でのボール支配率は57.7%(以下、データはOpta参照)とリーグトップの数値を記録。「今イタリアで最もペップのチームに近いのはどこか」と聞かれたら多くの人が「サッスオーロ」と答えるに違いない。
しかし、サッスオーロをサッスオーロたらしめているのは決してそうした要素だけではない。デ・ゼルビのチームが少し他と違うのはその「縦志向」、言い方を変えれば「縦への速さ」にある。ポジショナルプレーのチームはどちらかと言えば試合をゆっくりと、完全にクローズドなまま進めていくことが多いのに対して、このチームは攻撃面において縦志向を取り入れることで部分的なオープン性を担保している。その理由は、ドメニコ・ベラルディをはじめとした選手個人個人の特性に合わせてゲームモデルを調整した結果であるところが大きい。
「引き寄せて背後を狙う」GKからのビルドアップ
そうしたこのチームの哲学が最もよく表れているのが、必ずGKから始まる後方からのビルドアップである。その原則は、「相手を引き寄せて背後のスペースを突く」こと。日本で一時期大分トリニータの片野坂知宏監督が採用した「疑似カウンター」が話題になったが、それに近い形と言うこともできる。
この戦術を採用するためにはギリギリまで敵を引きつけてボールを離す出し手側の技術と精神力、そしてそうした精神面でのリスクを負った上で生まれたミスからの失点はある程度やむを得ないとするチームとしての割り切りが必要になってくる。その点でいくと、サッスオーロの選手たちはGKも含めて相手のプレッシャー下でボールを持つことをまったく厭わない。むしろ積極的に相手の前線からのプレッシングを誘発し、低い位置でパスを回して相手の1列目、2列目ラインをギリギリまで引き寄せたところで長距離の縦パスを前線へと送る。こうして背後に「意図的に」空けてある広大なスペースを利用して一気に前進するのがセオリーだ。
具体的に見ていこう。……