悔しさと、感謝と。高木大輔インタビュー
2021シーズン、約1年半ぶりに古巣であるレノファ山口に移籍した高木大輔。昨シーズンまで所属したガンバ大阪では出場機会に恵まれず、悔しい時間を過ごした。特に2020シーズンは若手選手主体で構成されるガンバ大阪U-23でのプレーが増える中、何を考えプレーしていたのか。本人の口から語られたのは難しい環境下での苦労や葛藤、そして……。
「自分の良さをもっと出せ」
――昨シーズンはガンバ大阪U-23でプレーする時間が長いシーズンでした。オーバーエイジ(以下、OA)という難しい立場でもありましたが、意識されていたことはありますか?
「最初は『チームを引っ張らなければいけない』とか『違いを見せなければいけない』と思っていましたが、U-23でプレーする若手やユースの選手たちが試合を重ねるごとに成長する姿を見て『違う役割もあるのではないか』と考えるようになりました。他の選手よりもキャリアはあったのでピッチ外でも経験は伝えて、チームの成長や勝利へ貢献したいという意識がシーズン途中から高まりました」
――若手選手がゴールを決めた時に、うれしそうに祝福してチームを盛り上げる高木選手の姿が印象的でした。
「U-23はトップチームとの兼ね合いで出場メンバーが試合直前まで流動的で、1週間頑張って練習してきても試合当日にトップチームからOAの選手が来て出場機会がなくなるなんてケースもありました。そうした状況で『一つになって戦おう』と言葉にするのは簡単でも実際は難しいこと。それがU-23の特徴……と言うと語弊があるかもしれませんが、だからこそ勝利の喜びを感じることができるチームでもあり、ゴールを決めた時、試合に勝った時は一緒に喜びたいなって。U-23独特の難しさはあるけど、切り替えてやるしかなかった。そういうメンタルの部分はみんなにも伝えました」
――高木選手自身はU-23でプレーすることに悔しさもあったと思います。その中でフォア・ザ・チームの意識を高めることに対する葛藤はありませんでしたか?
「森下(仁志)監督に『お前がすごく可哀想に見える』と言われたことがあります。良くも悪くもチームのために動き過ぎていることに気づかせてくれて。『自分の良さをもっと出せ』と言ってもらえました。森下監督はどんな状況でも選手を見て、信じて、常に厳しく接してくれました」
――森下監督は高木選手の気持ちの変化に気がついていたのですね。
「実は山口(智)コーチにも同じことを言われたことがあって。試合の翌日などU-23とトップチームの試合に出なかった選手が一緒に練習する時があるのですが、そこで『チームのために徹することがお前のためになっているのかわからない。もう一度自分の良さを出すことを考えてもいいんじゃないか』と言ってもらえた時も救われた気持ちになりましたね」
――昨シーズン終盤はトップチームにケガ人が続出したこともあり、U-23で一緒にプレーした若手選手たちがJ1での出場機会をつかんでいきました。一方で高木選手にはチャンスが回ってこなかったことをどのように受け止めていましたか?
「トップチームで練習している自分よりもU-23でアウェイゲームを戦った選手が中2日で(トップチームの)試合のメンバーに入った時は『なぜ?』という思いも正直、ありました。けど、メンバーを決めるのは監督なので。自分の実力や監督のサッカーに対する理解が足りなかった結果だと思うので、根に持つようなことはなかったです。特に(川﨑)修平や(唐山)翔自、(奥野)耕平はよく会話した選手でもあったので、トップで結果を残してほしいという気持ちが強かったです」
――精神的に難しい時もあったと思いますが、J3第33節鹿児島ユナイテッドFC戦、J3第34節FC岐阜戦で2試合連続ゴールを決めるなど個人として結果を出しました。
「その時期はトップチームの練習にすら出られなくなっていたのですが、U-23GKコーチである佐野(智之)さんも『練習だとシュート入るんだけどな(笑)』と茶化して気持ちを楽にしてくれた。山口コーチや佐野GKコーチなど、自分をもう一度トップで活躍させたいと思ってくれる方々に支えてもらいました。
そして、U-23で試合に使い続けてくれた森下監督。気持ちが折れそうな時もありましたけど『ここで頑張らないと』『自分自身で解決しないと』というメッセージだと捉えていました。だから、ゴールをした時に森下監督が笑顔で迎え入れてくれたのがなによりもうれしくて。結果を出すのが遅かったので最後までトップチームには上がれませんでしたが、感謝したい人はたくさんいます」
――結果を出した後、森下監督から何か言葉はかけられましたか?
「鹿児島ユナイテッド戦の2日前に子供が生まれたのですが、森下監督からは『(子供の誕生によって)大輔に力が宿るから、これから先のサッカー人生でも頑張っていれば必ず良いことがある』と言ってもらえたのは覚えています。言葉でもたくさん救っていただいて、感謝してもし切れないところがあります」
――ガンバ大阪U-23は2020シーズンで活動を終了しました。今シーズン、J2クラブに移籍して出場機会を得ている元チームメイトも多いですが対戦は楽しみですか?
「みんな良い選手なので対戦したくないですね。全員一緒のクラブに移籍したいと思っていたので(笑)。けど、(松田)陸もレギュラーで出場しているし、オム(山口竜弥)も途中出場していたり、刺激になる部分はあります。年齢は違うけど一緒に戦った仲間なので。先輩として負けていられないと思える元チームメイトがいるのはうれしいことだなと思います」
良かった頃のレノファに戻したい
――2021シーズン、移籍先として古巣のレノファ山口を選ばれました。経緯を教えてもらえますか?
「昨シーズンのプレーを考えた時に僕を欲しいと手を挙げてくれるクラブがあるのか、このまま終わってしまうのではないかという気持ちがありました。けど、U-23でのプレーを評価してくれたレノファ山口がいち早く声をかけてくれた。即決でした。『戻らせてもらいたいです。もう一度頑張りたい』と伝えました」
――古巣には特別な想いがありましたか?
「2018年にレノファに移籍してきた時も(前所属である東京)ヴェルディで出場機会が得られない状況でオファーをいただいて、サッカーができる喜びを経験させてもらって、その先にガンバへの移籍があった。そういう意味でレノファへはポジティブなイメージがあるし、このクラブが好きなので。昨シーズン、苦戦する試合は見ていたので、自分が戻って良かった頃のレノファに戻したいという想いはあります」
――今年から就任した渡邉晋監督のサッカーの印象を教えてください。
「ポジショニングとボールを大切にするサッカーですね。全体のポジションバランスが良ければボールがスムーズに回る。守備もはめやすい。そういう部分は感じています」
――渡邉監督はベガルタ仙台を指揮されている際、選手に対してカタカナを使わなかったとお聞きしたのですがレノファ山口ではいかがですか?
「そう言われると確かに。監督の言葉を聞き慣れていたから気がつかなかったです。自然と洗脳されているのかも(笑)」
――高木選手が渡邉監督からよく言われる言葉はありますか?
「ポジション的に“幅”はよく言われますね」
――ヒートマップなどデータを見ても、高木選手はサイドで幅を取る役割でポジションチェンジも少ないです。ポジショニングは細かく指示されていますか?
「僕自身は中に入ってもプレーできるし、外に張ってボールをもらうこともできる。プレーするエリアは出場する選手の特徴を見て判断しています。例えば、最近サイドで組むことの多い石川(啓人)選手はもともとボランチでプレーしていて足下が巧い。だから(石川選手が)中で自由に動いてもらうことで僕が外でフリーになれるのであれば、それがチームとして有意義だと思います。動きが固定されているということでもないですね」
――チーム全体についても伺わせてください。第2節FC琉球戦、第3節アルビレックス新潟戦はともに前半の戦い方に課題が残る内容でした(※取材日:2021年3月19日)。
「逆に言えば後半は改善できているので、そのサッカーを前半からできていれば……とは思いますよね。もちろん、あの後半の勢いを前半から出すことは簡単ではないのですが、もう少し前半に主導権を握って相手を動かすことができれば、相手の疲労が出てくる後半に決定機をもっと作れるはずです。チーム内で細かい部分を突き詰めて改善を続けていきます」
――後半に内容が改善される要因は何だと考えていますか?
「失点を取り返さなきゃいけないという気持ちじゃないですかね。けど、失点してからでは遅い。逆転するのはそんなに簡単なことじゃない。前半を戦う意識を変えられるかは大切だと思います」
――では、最後にこの記事を読んでいただいたサポーターの皆様にメッセージをいただけますか?
「序盤戦勝てていないので、僕たちは1試合でも早く勝利を届けられるように全力でプレーすることを約束します。ただ、結果を伴わないとプロサッカー選手としては意味がない。ホームでもアウェイでも勝ち点を積み重ねられるようなサッカーを目指します。僕自身もゴールやアシストにこだわってプレーしていくので、残りシーズンも期待して応援してもらえればうれしいです」
Photos: ©️RENOFA YAMAGUCHI FC, Getty Images
Profile
玉利 剛一
1984年生まれ、大阪府出身。関西学院大学卒業後、スカパーJSAT株式会社入社。コンテンツプロモーションやJリーグオンデマンドアプリの開発・運用等を担当。その後、筑波大学大学院でスポーツ社会学領域の修士号を取得。2019年よりフットボリスタ編集部所属。ビジネス関連のテーマを中心に取材・執筆を行っている。サポーター目線をコンセプトとしたブログ「ロスタイムは7分です。」も運営。ツイッターID:@7additinaltime