CLでは順調にベスト8へ進出、プレミアリーグでも首位を独走中。今季は破竹の公式戦21連勝を達成するなど、勢いに乗っているマンチェスター・シティ。好調の要因として大きな話題になっているのは、攻撃性能に優れたSBジョアン・カンセロがMFやFWの役割まで複数こなす「カンセロ・ロール」だ。偽SBの進化形と目されている新戦術を、ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』でお馴染みのらいかーると氏に解説してもらった。
SBがボール保持時に、本来いるべきタッチライン付近から内側のアンカーが立つプレーエリアに移動する戦術は、現代サッカーで「偽SB」と呼ばれている。偽SBが生まれた背景には、一人で中盤の底を任されている選手にマンマークをつけて攻守両面で無力化する戦術の流行があった。そうした対策への対策として、SBがもう一人のアンカーに化けてマークを混乱させる偽SBが誕生したというわけだ。ボールを奪われたトランジション時のフィルター役を増やして、相手のカウンターを防ぐ狙いもある。
2人目のアンカーが必要なら内側に入り、機能しなければSBの位置に戻る。試合中に両方の役割を柔軟に変えられるのも偽SBの特徴で、対応する相手に負荷をかけ続けられる。時間の経過とともにボール保持に慣れていくのが一般的な守備側に、偽SBは位置や役割を変化させて常にマイナーチェンジを強いられる仕組みの一つになっている。
こうして偽SBがこなすSBとアンカーの役割に加え、インサイドMF、WG、FWのポジションにまで顔を出す。神出鬼没の動きで世界中から注目を集めているのが「カンセロ・ロール」だ。確かにその名前の由来となったジョアン・カンセロのポジショニングは、一見すると無秩序に映る。しかし周りの選手の動きとあわせて観察すれば、所属するマンチェスター・シティの約束事にそっているのがわかる。その基準となるのが、シティの練習場のピッチにも敷かれている「5レーン」だ。
カンセロの役回りを決める「5レーン」
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らいかーると
昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』(小学館)。