【対談前編】西部謙司×tkq――なぜ、人はジェフ千葉を愛するのか?
ジェフユナイテッド市原・千葉の2020シーズンを綴ったエッセイ『犬の生活 Jリーグ日記 ジェフ千葉のある日常』が2021年2月22日に発売。それを記念して著者であるジャーナリストの西部謙司氏とジェフサポーターのtkq氏に、それぞれの立場からこのクラブのディープな魅力を語り合ってもらった。
前編では、「マイクラブのある日常の価値」について考えてみた。
ジェフサポはマゾヒストなのか?
――今回は西部さんの『犬の生活』発売記念対談ということで、ジャーナリストとサポーターという異なる立場から、ジェフ千葉の魅力を語っていただければと思います。まずはお二人が千葉を応援するきっかけからお願いします。
tkq「僕はもともとはJリーグ全般を見ていて、特に応援しているチームはなかったんです。出身は栃木ですが、栃木SCは当時Jリーグにはまだ加入していませんでした。2000年より少し前に東京に出てきて、ちょこちょこ東京ヴェルディの試合を見に行ったりもしましたが、そこまで熱中するという感じはなかった。そのうち千葉の試合を見に行くようになり、そうしたらなんか面白いなと思って。それで2003年にイビチャ・オシムが監督に就任したタイミングでハマったという経緯です」
――西部さんもオシムあたりからでしたっけ? スポナビの犬の生活もその頃でしたよね。
西部「いや、犬の生活が始まったのはオシムさんの3年目くらいかな。特にオシムだからというわけではなく、本の中にも書きましたが僕は1番近くにあるチームが千葉だったので見始めました。サッカーの仕事を始めて10年くらい経った頃に、ひいきのチームが特にないというのもちょっと寂しいと思ったんです。それでどこにするかと考えた時に、やっぱり物理的に近いところは無理なく見に行けて良いんじゃないかと(笑)」
tkq「近いからということで(笑)」
西部「そうそう。遠いと大変だから、見に行くの」
tkq「すげー大変ですよ、遠いと。僕今、都内なんですけど、総武線で東京まで行って、そこから京葉線まですごく歩くじゃないですか。あそこでもう一瞬帰ろうかなってなるんです(笑)。見に行っても負けること多いですし。電車で40分くらいかけて行くのに」
西部「よく続きますね(笑)」
tkq「僕もそこまで熱心に毎試合通うとかじゃないですから。それぐらいの緩いスタンスだから続いているのかなと思います。これを毎試合スタジアムに行くみたいなノルマを自分に課していたら辞めてたと思いますね」
西部「結局、遠いと続かないよね。強いチームとか上手いチームという理由で見始めたら、要求がエスカレートしていくじゃないですか。でも、遠くのチームは直接見られない。極端に言えばCLと、一番近いところのチームがあればいいんですよ」
――めちゃめちゃレベルの高い試合とマイクラブがあればいい、と。
西部「サッカーとして見たいものと、あとは自分が物理的に無理なく見れるチーム。そこはけっこう二極化するんじゃないかなと、前から思っていたので。満遍なくサッカーを見る人は少なくなるんじゃないかって、2002年くらいには思っていましたね。子供の運動会って、関係ない人は見てても何も面白くないじゃん。ああ、足が速いなとか思うくらいで、誰が何してるとかわからないし。自分の子供や知ってる子が出てるから結構楽しく見られるわけで。そこに思い入れがないと、そこそこのレベルのものって見る価値がなくなってきちゃうから」
tkq「実際、今そうなってますよね」
西部「今は世界中のいろんなサッカーが見られる環境だから、そのすべてを満遍なく見れないしね。そういう見方をしているのは、仕事でやっている人以外はいないと思う」
――でも、オシムの頃のジェフはやってるサッカーの内容も魅力的で、みんなが夢中になって見ていたじゃないですか。
西部「流行っていたね」
――彼がいなくなって迷走からなかなか抜け出せず、J2に11年目。すごく失礼な話なんですが、今のジェフサポはどういうモチベーションで見ているんですかね?
西部「変な言い方だけど、子供は親を選べないって言うじゃん。親も子供を選べない。自分の子がどんな子が生まれるのはわからない。だから選べないというか。決めちゃったから仕方ない」
tkq「僕もそれに近いですね。今さら例えばめちゃめちゃ強い川崎のファンになります、とはならないですよ。チームを変えるのがダサいし、だるい。新しくいろいろ覚え直さなきゃいけないし、あとは一応ナビスコカップを獲ったという過去の栄光があるじゃないですか。その記憶が残ってて、それだけにすがっているような気はします」
――名門がJ2で11年ってもはや独特で、ジェフサポってアーセナルファンに近いなって見ていて感じます。マゾヒズムじゃないですけど(笑)。
tkq「アーセナルファンの作家ニック・ホーンビィっているじゃないですか。『ぼくのプレミア・ライフ』を書いた。その人がサッカーファンは、ほぼ100%だか80%だかがマゾヒストだって書いてましたね。その当時のアーセナルも激弱かったじゃないですか。千葉も試合を見に行ってもしょうもない内容だったりするわけなんですけど、それでも行くというのはサッカーファンの本質というか、そういうのにハマっちゃってる感じはしますよね」
西部「わりと屈折してる人多そうだよね」
tkq「強かった時についたファンで、まともな人ってもう弱くなったらほとんどいなくなって、あとはまともじゃない人間しか残ってないんじゃないかと(笑)。よく千葉サポ面白いって言われるんですけど、変わった人とかまともじゃない人しか残っていない」
――すごい変な人いるなと思ったら、千葉サポだったりとかありますね(笑)。いぬゆなさんとか。
tkq「あの人も変わってますね」
西部「あの人はJ2になってからみたいですね」
tkq「らしいですね。J2になってからファンになったようで」
西部「J1知らない人もいっぱいいるんじゃないですかね。今フクアリに行ってる人なんて半分以上知らないんじゃないかな」
tkq「そうでしょうね。そうなると逆になんで行くんでしょうね。やはり近いからなのかな」
――今、新しいクラブがいろいろできてきてるじゃないですか。そういうクラブと一緒に成長していくみたいなストーリーでファンが増えていくのはわかりやすい。でも、ジェフみたいに名門がJ2に落ちちゃって、10年ぐらい上がれなくなってしまった。そういうクラブにつく新しいファンって、どういうきっかけでそのクラブを応援するのかなと。
西部「結構様々だと思いますね。サッカーが入り口で入ってくる人と、全然違うところから入ってくる人がいるから。それこそ地元の人で招待券をもらったから行きますとか、息子がサッカーやってるんで見に行きましたとか、一日署長みたいなイベントで見た選手がカッコ良かったからみたいな。そういういろんな理由で来てるんじゃないですかね」
――そういうところにサッカーの本質的な価値があるような気がします。……
Profile
浅野 賀一
1980年、北海道釧路市生まれ。3年半のサラリーマン生活を経て、2005年からフリーランス活動を開始。2006年10月から海外サッカー専門誌『footballista』の創刊メンバーとして加わり、2015年8月から編集長を務める。西部謙司氏との共著に『戦術に関してはこの本が最高峰』(東邦出版)がある。