実際のトレーニングメニューや「個人成長シート」も公開。F.C.大阪ヘッドコーチ・平野将弘が自チームのプレーモデルを特別解説
近年、日本サッカー界でも活用例が広がりつつあるゲームモデル/プレーモデルという概念。ただ、クラブの根幹に関わる部分となるだけに、プロレベルのクラブで実際にどう運用されているかが明かされることはほとんどない。しかし今回、JFLに所属するF.C.大阪の平野将弘ヘッドコーチが実際にクラブで作成しているプレーモデルに加え、それに基づき行っている具体的なトレーニングの一部なども可能な範囲内で特別に公開してくれることに。普段はなかなかうかがい知ることのできない、チーム構築のリアルに触れてほしい。
この記事に興味を持ってくださりありがとうございます。F.C.大阪 ヘッドコーチの平野将弘です。昨シーズン頭から塚原真也監督の下で指導に携わっていますが、昨年はあと1勝でJリーグ昇格を逃すという大変悔しいシーズンに終わりました。塚原監督は豊富な知識と優れた指導力を持ちながらも、私みたいな若造も快く受け入れてくれるかなりオープンな方です。毎日繰り返しミーティングを行いながら、コーチングスタッフ全員の意見が尊重されます。そして我われの活動の中で昨シーズンから現在に至るまで、塚原監督を中心に現場で様々なアプローチや取り組みを考え、現場で積極的に導入しました。そこで今回は塚原監督、垣井大治GKコーチ、山野晶夫コーチと私で編み出して実際に実践している取り組みの中からいくつかを、全員の代表として私が紹介したいと思います。
F.C.大阪のプレーモデル
オフシーズンは“昨シーズンの振り返り”、“来季の目標設定”、“来季のシーズン前のTRプラン”や“初日のミーティングの資料作り”などの仕事が主流かと思われます。我われの場合はそこに“来季のプレーモデル作成”という作業が加わります。
クラブからどのようなサッカースタイルを求めているかということが提示されますのでそのスタイルを軸として、そこに手持ちの選手の個性やチームの特徴を鑑みて作り上げていきます。これまではチームの約束事が明確になかったという選手の声もあったのですが、このプレーモデルの導入によりどの選手がピッチに立ったとしても、システムがどう変化しようとも、ピッチ上の選手が同じ意識の下でプレーすることができるようになりました。
中身のほとんどが公開できずに申し訳ありませんが……サッカーにおける4つの局面(攻撃、守備、守→攻と攻→守の切り替え)それぞれに加え、攻撃と守備に関してはピッチを縦に3分割してそれぞれのゾーンごとにプレー原則を設定しています。我われのチーム、グループ、選手のより良い意思決定の手助けになるように、各局面において優先的に判断してほしいことや意識してほしいポイントが記されています。さらには攻守ともにやることがはっきりしているチームやある特定のプレーの質が高いチームが上位にいたり、例えば去年の優勝チームのヴェルスパ大分さんは主流の戦い方+αでもう一つの質が高く徹底されていたりと、そういったJFLのリーグの特性も考慮しています。
各局面で特に重要視しているポイントに関しては赤字で書かれており、各局面4つほどのポイントに絞っています。隠されていない部分で“ハント”という言葉がありますが、「狩る」=相手のボールを奪うという意味で、我われのサッカースタイルを表現する上で大切な言葉になっています。このようなF.C.大阪独自で使われているワードが多数存在します。それらは、図やアニメーション付きの資料を用いて選手に共有しています。
プレーモデルの作成により選手だけでなく、コーチングスタッフも恩恵を受けています。具体的には①練習メニューの作成、②個別分析を含む自チーム分析の2つにおいてです。
練習メニューの作成
その週の練習メニューの大枠は週の頭には決まっていますが、毎日行っているコーチングスタッフのミーティングにて次の日の練習メニューの詳細を議論して決定しています。練習メニューを考える際、プレーモデルがあることにより各ゾーンや局面においての落とし込みがしやすく、練習内容も考えやすいです。特にこのシーズン前の時期は相手チームの対策もありませんし、時間もありますのでプレー原則の落とし込みという観点ではより自分たちがプレーしたいサッカーからブレずに、日頃の練習を通してパフォーマンスの向上に努めることができています。
ここで、昨年のプレーモデルのプレー原則をもとに実際に行った練習メニューを紹介します。切り替えのところにフォーカスを当てたトレー二ング(以下TR)です。カウンターアタックやスピードのある攻撃は我われのサッカーの代名詞の一つなので、こういったTRは有益だと思われます。
「F.C.大阪さんのハードワークは対策のしようがない」
これはあるクラブの監督さんが、昨年のリーグ戦の試合後におっしゃられた言葉です。個人的にかなり腑に落ちた見解でした。そういったF.C.大阪らしい、高い強度をTRから求めていきます。
TR1です。去年のF.C.大阪のプレーモデルには攻撃のところで“数的優位を作りながら侵入”、ポジティブトランジション(守→攻の切り替え)では“速攻の3S(スピード、スペース、シュート)”、ネガティブトランジション(攻→守の切り替え)では“一番近い人がボール、周辺は人を捕まえる”というプレー原則がありました。これから説明する2つのTRは、これらをキーポイントとして考えられています。
構成は青チームvs黄色チームで、それぞれGK、DF2人、FW2人、外の両サイドに4人です。+フリーマン(自陣でのビルドアップにのみ参加)で行われます。……
Profile
平野 将弘
1996年5月12日生まれ。UEFA Bライセンスを保持し、現在はJFL所属FC大阪のヘッドコーチを務める。15歳からイングランドでサッカー留学、18歳の時にFAライセンスとJFA C級取得。2019年にUniversity of South Walesのサッカーコーチング学部を主席で卒業している。元カーディフシティ