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現地で指導したマーレー志雄が徹底解説。グラスルーツに変革をもたらす「イングランドDNA」

2021.02.20

フィル・フォデンら黄金世代に限らず、各年代で絶え間なく有望株を輩出し続けるイングランド。さらなるタレントを育成すべく、FA(イングランドサッカー協会)が取り組んでいるのが、グラスルーツを豊かにする「イングランドDNA」だ。実際に現地で子供たちを指導したマーレー志雄氏に、FAの多岐にわたる取り組みを紹介してもらった。

教本が白紙で配られるイングランド

──イングランドのグラスルーツで指導されていたマーレーさんに、今回はFAの取り組みについてお話をうかがいたいです。まず、FAが進めている「イングランドDNA」とは何でしょうか?

 「イングランドDNAは、男女ともに勝てるA代表を作るためにFAが打ち出した長期的なプロジェクトです。そもそもイングランドでは、小さい頃にグラスルーツから発掘されたごくわずかな選手だけがアカデミーに入り、英才教育を受けてプロになれます。ただ、グラスルーツとアカデミーの間で格差が広がり過ぎてしまい、競争力が下がってイングランド人選手の質が下がってしまった。だからA代表に目標を設定することで、グラスルーツからアカデミーまでイングランドサッカー全体の底上げをするために、2016年からイングランドDNAが本格的に始動しました」

──イングランドでは男子の場合、グラスルーツで約60万人(2015年時点)の子供たちがプレーしていますが、アカデミーの数は約90しかありません。そのギャップを埋めるべく、イングランドDNAではゲームモデルが掲げられていますよね

 「A代表のゲームモデルだけ決められています。ボール保持、ボール非保持、トランジションのプレー原則を国として定めることで、必要な選手像を明確にしてグラスルーツまで浸透させる狙いがありますね。例えば、ボール保持では『プレーを前に進めて相手を突破する適切な瞬間を選択しながら、賢くポゼッションを支配する』。それを実現するためには『カウンターアタック』『プレーを構築するボール保持』『推進力と突破力』『創造力と得点力』の4つの能力が必要になると記していて、特に創造力のある選手を育てようとしています」

ボール保持で必要とされる4つの能力(参照元:The Boot Room)

──かなりシンプルに作られているんですね。

 「イングランドは様々な民族や文化によって成立している国で、一口にグラスルーツと言っても本当に多種多様です。だから、ある程度は方向性を定めないと一貫した育成ができないという背景があります。でも明確に決められているのは必要な能力だけで、実際に選手を育てる方法は現場の指導者に委ねられている。FAの講習動画も『あなたはどうアレンジする?』という問いかけで終わりますし、講習会でもモデルやフレームワークは教えてくれますが、教本は白紙で配られるんですね。どう使うかは、様々な環境で様々な子供たちを相手にする指導者次第なんです」

──だから、ウェイ(方法)ではなくDNAなんですね。そのせいか、イングランド代表に選ばれる選手の顔ぶれもかなり変わってきています。

 「まず、スタイルが大きく変わりましたよね。昔は[4-4-2]で、『キック&ラッシュ』に近いクロスやロングボールを多用する戦い方でしたが、今は臨機応変にフォーメーションを使い分けながら、ボールを保持して即時奪回する戦い方に移行している。だから選手、特にDFとMFの特徴も大きく変わりました。CBも空中戦に強かったリオ・ファーディナンドやジョン・テリーから、パスも繋げるハリー・マグワイアやジョー・ゴメスになっていますし、中盤もミドルパスを蹴ってゴール前まで走り込んでいたスティーブン・ジェラードやフランク・ランパードから、テクニカルで柔軟性の高いハリー・ウィンクスやフィル・フォデンに変わっている。そういう選手が増えていますよね」

──彼らに続く選手たちをどのように育てているのでしょうか?

 「選手の成長は年齢ごとに異なるので、大きく3つの年代――5歳から11歳をファンデーション・フェーズ、12歳から16歳をユースデベロップメント・フェーズ、17歳から21歳をプロフェッショナルデベロップメント・フェーズと分けて、各年代で取り組むべきポイントの優先順位をつけています」

──各フェーズでは何が求められるのでしょう?

 「ファンデーション・フェーズでは、個人の能力に焦点が当てられていて、攻撃ではボールの扱いを身につけなければいけません。ミスを恐れてパスを欲しがらないような選手ではなく、楽しくボールを持てるような選手を目指します。守備では、特に1対1の対応に力を入れますね。

 ユースデベロップメント・フェーズでは、攻撃だとあらゆるエリアでボールを受けること、数的不利を打開できることが求められます。守備においてはチャレンジ&カバーなどのグループでの守備を教えていますね。

 プロフェッショナルデベロップメント・フェーズでは、攻撃だと個性が発揮できるか、意図を持ってボールを回せるかを学びます。守備においては、試合の文脈に沿った守備ができるか。例えば、勝っているのか負けているのか、プレスを仕掛けるのかリトリートして下がるのか、それぞれの状況に最適なチームとしての守り方を身につけます。すべての年代に一貫しているのは、攻撃だと個人、グループ、チームとしてボールを大事にすること。守備においては、積極性と知性が重視されていますね」

創造力を育むためのゲーム形式

──「数的不利を打開する」という言葉がありましたが、そこは日本でも議論になりますよね。数的不利でも突破できる技術力が必要なのか、数的不利だと判断できる戦術眼が必要なのか。……

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イングランド育成

Profile

足立 真俊

1996年生まれ。米ウィスコンシン大学でコミュニケーション学を専攻。卒業後は外資系OTAで働く傍ら、『フットボリスタ』を中心としたサッカーメディアで執筆・翻訳・編集経験を積む。2019年5月より同誌編集部の一員に。プロフィール写真は本人。Twitter:@fantaglandista

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